2008年09月29日

恐怖のステレオおやじ 【エピローグ】

前回からのつづきです。


さて、春先に引越しを決めてからも、なかなか条件に合う引越し先は見つかりませんでした。子供の学区のこともあり、どうしても近所で探すつもりでした。
夏も過ぎた頃に、近所の昔馴染みの不動産屋さんが一軒の賃貸物件を見つけて紹介してくれました。
駐車スペースも2台分確保できるし、レッスンする部屋もとれます。
広い家だったので、実家を建て直している間、実家の家具などを詰め込んでおけそうです。

当初、立替え中は母が住むための賃貸マンションを借りる予定だったのですが、その間この借家に同居すれば、ステレオおやじのために被った経済的損失はかなり圧縮できます。

さらに経費節減のために、引越は荷物を自家用車(ワゴン車)でコツコツと運び、自力で敢行することにしました。
引越し先の借家はマンションから車で2〜3分の場所なので充分可能な距離です。
引越し予定日を仕事が比較的暇な2ヶ月後に設定して、日常使わない物からダンボールに詰めて、毎晩少しづつ運びました。
まるで夜逃げのような光景でしたが、仕方ないです。これで引越費用を2〜30万円払わずにすみます。


そうしている間にも、上階からのステレオ音は相変わらず、ズ〜ンズ〜〜ンと響いてきていました。
イライラしますが、もう少しの辛抱です。

その頃、マンションの隣の敷地で工事が始まりました。
土地が坂になっているので、古い擁壁を作り替えるような工事だったと思うのですが、ある日、工事が長引いたらしく、夜になっても重機の音が止みません。
そして10時を過ぎた瞬間です。
上階のベランダが勢いよくガラガラと音を立てて開きました。
そしてステレオおやじが工事に向かって「うるさいぞー!」と大声で叫びました。

私も家族も上階のベランダで叫ぶステレオおやじの声にびっくりしました。
工事の音はたしかに聞えますが、毎日夜までやっているわけではないし、たまたまです。
上階のステレオの方がずっとずっと大きな音です。
それに、ベランダから工事に向かって大声で怒鳴るなど、なんという常軌を逸した品のない行為でしょうか。


自分の出す音は皆に苦情を言われようが、警察に注意されようが、全く省みようとはしません。しかし周囲が出す音は絶対に許せないのでしょう。
この人は”自分は特別だ”という意識が強すぎるのだと思います。
私は引越しが目前に迫っていたので、「思えば可哀想な人・・」と以前よりは余裕のある気持ちで、この孤独な老人を眺めることができました。



1ヶ月後、無事に引越しは終わりました。
マンションのお世話になった社長さん家族やご隠居夫婦にご挨拶に行きました。
親しく付き合っていたのでみなさん残念がってくれました。
社長さん夫婦に「やっぱり、一軒家なの?」と訊かれ「はい」と答えました。
社長さん夫婦は複雑な表情を浮かべました。「災難だったね・・」という言葉を一瞬表情から読み取った気がしましたが、分かりません。


当座の新居はマンションよりさらに山に近い場所の一軒家です。
夜は虫の声や遠くの幹線道路からの自動車の音は聞えますが、とても静かです。
外に出ると、近所から時折テレビの音が聞えて来たりしますが、こうした生活音はむしろ、周囲にも人の生活があることを意識させてくれて安心します。

近所にご挨拶に回りました。
名刺を渡して、「レッスンなどしますけど、ご迷惑がかからないように気をつけますので」と言い添えて周りました。
隣のご夫婦は札響の定期会員、もう一方の隣のご夫婦もよく札響の演奏会に来てくれるそうです。そして向かいはうちと同じ年ごろの子供がいる道新の記者の家族、という非常に恵まれた環境でしたが、みなさんレッスンに関しては快く「どうぞ、どうぞ」と言ってくれました。

2階の一室でおそるおそるチェロを弾いてみました。
ここで苦情が来たら一巻の終りです。

1週間ほどしても苦情は来ません。
レッスンも再開しました。
やはり苦情はきません。

久しぶりに、本当に久しぶりに、自宅で練習やレッスンに集中できる環境を取り戻しました。

休日は家の前で洗車をしました。
もう駐車場や敷地内でステレオおやじとハチ合わせになる心配もありません。
夕方は子供の手を引いて、近所の公園に散歩に行きました。
6時になってもステレオおやじの高級外車がボボボボ・・・とエンジン音を鳴らして帰ってくることもありません。

夕食が終わって7時のNHKニュースを見ます。
この時間は上階のステレオの音が一番大音量になる時間帯です。
でももうステレオの音は聞えません。
当たり前にくつろいで、気持ちをリラックスさせた状態で、TVを見たり子供たちと居間で遊ぶ食後の時間が数年ぶりに戻ってきました。
私は音が聞えてこない天井を見上げて、しみじみとステレオおやじのいない生活に感謝しました。


9月です。窓を開けると虫の声や風に揺れる木々のざわめきが聞えます。
「なんでもっと早くこうしなかったんだろう・・」
そんなことをぼーっと思いながら、自然の音に耳を傾けていました。



その後マンションは売りに出しました。
途中、内装を施したりしたので、その打合わせや点検のために、たまにマンションに出入りしていました。
部屋に入ると、まずは駐車場を眺めおろしてステレオおやじの車の所在を確認する癖は抜けません。
ガランとした部屋に、やはり上階からのステレオ音が響いています。
私が引越したので、ステレオおやじもさぞ羽を伸ばしているだろう、と思ったのですが、ステレオの音は以前ほど大きくない気がします。
ひょっとして、私を追い出すために、わざと下に響くようにステレオをかけていたのかもしれません。
そのくらいのことはやりかねない人ですが、私の考えすぎかもしれません。どちらにせよ、もうどうでもいいことでした。


ステレオおやじが今でもあのマンションに住んでいるのかは不明です。
ごくたまに近所で見かけることがあるので、この周辺に住んではいるのだと思います。

思い返しても、あの人が周囲と協調することは不可能と思います。きっとどこかで今も隣人とトラブルを起しているに違いありません。しかし、地域コミュニティーの中から、こういう問題のある人を排除するのも不可能です。
いくらステレオが騒音といっても、騒音自体を取り締まる実用的な法律は存在しておらず、騒音によって健康被害でも受ければ傷害罪と言えるのでしょうが、実際は難しいと思います。


私はしばらくジャズが聴けなくなりました。
それが一番深刻と言えば深刻な後遺症でした。
最近やっと楽しく聴けるようになりましたが、たまにステレオおやじの顔がちらつきます。この程度で済んだことを感謝するべきかもしれません。


長いこと「恐怖のステレオおやじ」の連載にお付き合いいただいてありがとうございました。

万が一、あなたが不幸にもステレオおやじの隣人になったら、その時は無駄な抵抗は一切止めて、一刻も早く引越しを考えることを心からお薦めします。


【おわり】





※この物語は私の体験をもとに綴ったフィクションであり、登場した人物、団体等は実在しません・・・・。(ということでよろしく)
  

Posted by arakihitoshi at 17:37Comments(10) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月28日

恐怖のステレオおやじ 【18】

前回からのつづきです。


総会ではある程度言いたいことが言えました。
ステレオおやじも理事長を辞めることになりましたし、私のレッスンやKさんのペット問題も晴れてマンション公認となったわけです。

しかし、その後の生活にめざましい変化があったわけではありません。
上階の大音量のステレオは相変わらず鳴りやむことはありません。
レッスンもマンションでやることはほとんどありませんでした。公認されたとはいえ、ステレオおやじは総会で「これからも私は私のやり方でやる」と言っていました。いつ生徒がステレオおやじに因縁をつけられるかも分かりません。
それに、気の小さい話しではありますが、練習中やレッスン中に電話の音や玄関のベルが鳴ると、またステレオおやじが来たのかと思ってドキッとします。


マンションの共用部分では、なるべくステレオおやじと会わないように注意しながら行動しました。
それでもたまにハチ合わせることもありました。
そういう時はお互いに無視しあうのですが、向こうは私と一瞬目が合うと視線を上にそらします。これはバカにされている感じがしてかなりイヤな視線のそらし方です。
私もすれ違いざまに「あ〜あ」と溜め息をついたりしてみましたが、どちらにしても消耗戦です。


上階からのステレオ音に腹を立てて、ツッパリ棒で天井を叩くのは相変わらずやっていましたが、この頃はすでにステレオおやじとの攻防にも目的を喪失していました。

ある日、夜の10時頃に家に帰ると、警官が二人マンションの階段を登って行きました。3Fはステレオおやじの部屋しかありませんから、行き先はそこしか考えられません。
何事かと思い、ドアを半開きにして玄関でしばらく上階から聞える会話に耳を澄ましていました。
会話は途切れ途切れに聞えてきます。
警官は丁寧な口調で、「○○さーん、ステレオの音が少々大きいみたいなんですけど」
ステレオおやじの声はくぐもってよく聞き取れません。
「はい? いえ、・・・そんなに・・ですかね・・、はあ、」
警官「ご近所から・・・、ええ、そうなんですよ。10時も過ぎてますしね、われわれとしては・・・、ええ、そうなんですよ」


どうやら近所から警察に苦情が行って警官が注意にきたようでした。
私は胸のすく思いで、笑ながら妻に報告しました。
このマンションの隣は銀行の研修寮だったのですが、この前年にその土地が売られて、分譲マンションが建ちました。
なので、苦情の主は私の住むマンションの住人なのか、それとも隣のマンションの住人なのかは分かりません。

この日から1週間くらいはステレオ音は確かに少し小さくなりました。
しかし予想通り、2〜3週間もするとすっかり元どおりの音量に戻りました。
本人に”騒音”の自覚がないのですから仕方ありません・・・。


ペット問題で被害にあっていた女性社長のKさんと、財界の方が多く出席するある新春パーティーで偶然お会いしました。(本来私の身分では参加できない席ですが、演奏も兼ねてこういう場所に出入りする事があります)
Kさんは、あの総会でお見かけしたスエット姿とはまったく別人の、いつものぱりっとした素敵なKさんでした。
Kさんは一緒にいた友人らしい方に私を紹介してくれました。
Kさん「札響の荒木さん、私と同じマンションなの。そう、友人っていうか戦友よね」
私「あはは、そうですね。どうですか? その後ステレオおやじはおとなしくなりました?」
Kさん「うんうん、お蔭様で。荒木さんがポンポン言ってくれたから本当にスッキリしたわ!、それでね、やっとこないだ引越先が見つかって」
私「え? 引っ越すんですか?」
Kさん「そうなの〜、実はずっと引越先探してて」
私「え〜〜! いいな〜。あのマンション脱出?」
Kさん「そう。脱出。さらばステレオおやじ!」

Kさんは来週にも引っ越すそうです。
この時はKさんの晴れ晴れとした顔がとても羨ましかったです。


ちょうどこの頃、テレビのワイドショーで「騒音おばさん」というのが話題になっていました。
YouTubuへリンク  http://jp.youtube.com/watch?v=XiTAD4mQrg4
このくらい確信犯的にやってもせいぜい懲役3ヶ月。ラジカセ没収。(※)

一方でステレオおやじを法的に裁くことは可能なのでしょうか。言うまでもなく、日本では不可能です。

やはりこの頃、ある本に出会いました。
「近所がうるさい!」 橋本典久著 ベスト新書


著者は、八戸工業大学大学院建築学の教授で、”騒音ジャーナリスト”という肩書きもお持ちです。そして、アマチュアのチェロ奏者でもあるそうです。

本のカバーにはこう書かれています(抜粋)
『ひとたび、音が「騒音」として身体の内に入ってくると、それは「異物=敵」として認識され、気にしないでいることが極端に難しくなる。そして、騒音の被害者ばかりか、注意を受けた加害者の方も「あの程度の音で文句を言いにきて」と、いつしか、騒音トラブルはどろどろの人間トラブルへと変質していく。・・・・・』

この抜粋だけでも、私とステレオおやじのしこった騒音トラブルを言い当てているようです。
実のところこの本には本当に救われました。騒音トラブルがとても科学的に分析された本でした。
私とステレオおやじのトラブルも、実は一つの騒音トラブルの典型に過ぎず、それを知ることによって、ステレオおやじに意地でも負けてなるものか! という気持ちが、とてもケチなものに思えてきて、怒りが氷解していった気がします。
騒音問題で悩む方必読の、面白くてためになる良書です。お薦めします。



実家を改築するか壊して建て替えるかして、母と私の家族が住む二世帯住宅にするにはまだ少なくとも1年から2年はかかりそうです。

1400万円で購入したマンションにかかる経費は・・、
不動産屋への仲介手数料は1400万円×3%+6万円
登記にかかった費用がざっくりと20万円くらい。
7年間住んだとして・・・・、
まあ、この場所に賃貸で住んだ値段とちょうど同じか少し安いくらい。
ならば、すぐに引越を決断するべきです。

この後、一軒家を借りた場合に、
実家の建て替えまでとして、2年はその借家に住まないわけだから、敷金は返還されず、不動産仲介料と、マンションが売れるまでのローンの二重払い期間は、そっくり”損”になるわけです。

このままマンションに住み続けて、建て替えた実家に引っ越す場合と比較して、ざっくりと120〜130万円くらい損をする計算です。

それでも、一刻も早く近所の一軒家を賃貸して引っ越す選択を私は選びました。
経済的な損失はともかく、引越にまつわる手間は相当なものですが、それでも、この下らないステレオおやじとの攻防に終止符を打ちたい気持ちが勝ちました。


次回はいよいよ最終回【エピローグ】です。

決断してその後どうなったのかを綴りたいと思います。お楽しみに。


(※)騒音おばさんに関しては、その後マスコミやネットでいろいろな扱いがなされ、現在では評価が分かれていますが、あくまでもこの時点でのお話しです。  
Posted by arakihitoshi at 01:36Comments(1) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月23日

恐怖のステレオおやじ 【17】

前回からのつづきです。



渋々了承したステレオおやじは口元を斜めに歪めて憮然と腕を組みました。
そして壁に寄りかかって黙ってしまいました。
「そこまで言うならご勝手にどうぞ」とでも言いたげな態度です。

Bさんがそれを見て進行を引き継ぎました。
「議案書の”その他”っていうのは、ペットと楽器の教室の件なんですけどね。いろいろトラブルも起きてるみたいだから、ここらで話し合っておいたほうがいいと思うんですよ」
Bさんが言い終わっても誰もなにも言いません。会場は静まり返っていました。

当事者としての責任もあるし、私が最初に発言することにしました。
「ペットの話しからいきますか?、教室からいきますか?」
Bさん「そうね。まずペットからいこうか」

そこでステレオおやじが低い声で急に話しはじめました。
「ペット飼育は禁止ですよ。管理規約にもありますからね」

Bさんがそれに応えます。
「いや、だから○○さんさ、それじゃ話し合いにならないんだって。区分所有者の方が既に飼っているペットはどうするの?」
ステレオ「それはその方が判断すればいいことでしょ。そこまで考えてあげる必要ないんだよ」

それを聞いて新しく理事になった人が言いました。仮にTさんとします。Bさん寄りの穏健な意見です。
Tさん「でも規約にはどこまでが禁止とも書いてないしね。ハムスターはどうなの?とかなってくると、Kさんとこみたいな室内犬だってある程度大目にみていいんじゃないかな」
Bさん「そうなんだよな。管理規約は非常識を縛るためのものだから、常識的にやってる人まで縛っちゃうのは問題でしょ」

それを聞いてステレオおやじはせせら笑いながらいいました。
興奮してだんだんと顎が前に出てきています。
ステレオ「ハムスターや金魚はどうかしりませんよ。でも犬や猫は禁止に決まってるでしょ。一軒どこかでペットを飼っている家があったら周りの住人からも、ああ、あそこのマンションはペット飼っていいんだな、と思われるんですよ」

私も少し言わせてもらうことにしました。
「周りの住人って誰ですか? ○○さん(ステレオおやじ)よくそういう事おっしゃるけど、周りからはそんなに注目されてないと思いますよ。私もBさんやTさんと同意見ですね。管理規約のペット禁止条項は、例えば大型犬を廊下で徘徊させるとか、そういうことされた時のためにあるんだと思いますよ。それよりも○○さん(ステレオおやじ)がKさんにしてる嫌がらせの方が問題でしょ」

若造で新参者の私に言い返されてステレオおやじは不快感を隠しません。
耳から頭にかけて、もともと色白の肌が僅かに紅潮しています。
ステレオ「私がいつ嫌がらせしたの? なに言ってるんだ、あなたは」
「毎日訊ねて行ったり、貼り紙するのは嫌がらせでしょ。違いますか?」
ステレオ「違いますよ。私は理事長として禁止だから禁止と言いにいっただけだよ」


私とステレオおやじが言い合いになりそうになったので、Bさんが割って入りました。
Bさん「まあ、いろいろあるけどさ、Kさんの意見も聞いてみましょうよ。Kさんはどう思われますか? 」
ステレオおやじに追い出されたり、自主的に引っ越したりしてしまって、今ではペットを飼っているのはKさんだけになっていました。
Kさんはずっと黙っていましたが、Bさんに訊かれて「お任せします」という内容のことを小さく一言いって、あとはまた黙ってしまいました。
この件では本当にイヤな思いをしたのだと思います。


Bさんは総括のタイミングと判断したようで、「まあ、いろんな意見もおありだと思いますけど、一応ペット禁止と書いてはあるし、賃貸で入ってくる人もいるわけだから、今まで飼ってた方にかんしては問わないけど、これから新しく飼うのは止めてもらうってことにしたいけど、どうですか?」

多分、この結論はTさんたちと事前に示し合わせていたのだと思います。
みなさん頷くなどして同意の意思を見せました。
ステレオおやじは不服そうな顔をして上を向いて、また壁によりかかりました。


Bさんはつづけます。
「次に、楽器の教室の件なんだけど、これに関しては荒木さんに説明してもらおうかな」
私はいままでの経緯や、防音室を入れて練習やレッスンをしていることをかい摘まんで説明しました。

Bさんは「まあ、トラブルもあったみたいだけど、荒木さんのところのレッスンに関しても認めたいと思うんだけど、どうでしょう」と言いました。

ステレオおやじがすかさず反論しました。
「それは違うでしょ。さっきの犬の件じゃないけど、やはり規約で禁止されているものは禁止でしょ」
「ですから、さっきも説明したでしょ。私は住居として使用してるんですよ。それに周りに音もほとんど漏れてないでしょ」
ステレオ「だから、住居でレッスンするのが禁止なんだよ。」
「それっていいがかりじゃないですか?。私がレッスンしてあなたに迷惑かけてますか?、」
ステレオ「迷惑ですよ。誰がマンションに入るか分からないわけだし、音だって聞えますからね」
「音ならあなたのステレオの方がよっぽど問題でしょ。みなさんそう思いませんか?」


そこでBさんがまた仲裁に入ります。
Bさん「まあ、ちょっと。みなさんの意見も聞いてみましょう」

ここで促されて何人かの方が意見を言いました。
下の階のご隠居さんは私に同情的でした。というか、ステレオおやじに同情的な人はいないように見えました。ご隠居さんの意見は住人達の代表的な意見でした。

ご隠居「まあたしかに教室禁止とはあるけどね。○○さんのおっしゃるように、一切例外ありません、としちゃうと、例えば近所の子供を何人か集めて勉強を教えるとか、そういうのも出来なくなっちゃうわけでしょ。私は常識的な範囲でならいいと思いますよ。私の部屋は荒木さんの真下だけど、騒音と思うほど音も聞えてこないし。」

以前、ステレオおやじに「下の階のご隠居さんも、楽器の音に苦情を言っている」と私に言ったことがありました。
そのことを追求してやりたいとも思いましたが、既にみなさん充分ご存じだと思ったので止めておきました。

さて、説得力のあるご隠居さんの語り口に雌雄が決すると思ったのですが、ステレオおやじは怯みません。
ステレオ「まあ、○○さん(ご隠居)のおっしゃるような意見もありますけどね、荒木さんの場合は、お金を取って教室として定期的にやってるわけだから、これは禁止事項ですよ。それこそ賃貸とか新しく入ってくる人に示しがつかないですからね」

「お金取ってるか取ってないかなんて、いちいちあなたに報告してませんよ」という私の言葉を無視してさらにステレオおやじは続けます。
「分譲時にはこういうトラブルはあんまり無かったんだけどな、やはり年数経っていろんな人が入ってくると変わってきますからね。分譲時の住人っていうのは選ばれて入ってますけど、途中から入ってくる人は選べないから。どんな人が入ってくるか分からないから、しっかり規約を運用していかないとダメなんですよ」

ステレオおやじ独特の論調です。
これを言う時はステレオおやじは決まって薄い唇を尖らせて、顎を出し気味に話します。


ここまで言われては私も黙っていられませんので言わせてもらいました。
「誰が誰を選ぶんですって?」と言って怒りを超えて苦笑が漏れました。
さらに続けます。
「ご自分のことは棚に上げて、規約規約っておっしゃるけど、あなたのステレオ騒音は明らかに規約違反ですよ。テレビやステレオの音量を著しく上げてはいけない、って書いてますからね。ベランダに大量に植えてる植物だって規約違反ですよ。土砂搬入禁止ってあるでしょ。それからクリスマスに窓に飾ってる電飾も禁止ですよ。窓等に文字を書いてはいけない、って規約にありますから。」
ステレオ「それは論点のすり替えでしょ」
「すり替えじゃないんですよ。あたながナンセンスな事言ってるのを例え話で説明してるんですよ。」
こう言っている間もステレオおやじは興奮を隠すようにせせら笑ったり、隣にいる管理会社の人に用も無いのに話しかけたりして、まともに話しを聞いていません。

「それから、○○さん、私のところに来た客を呼び止めて、”レッスン禁止だぞ”とか言うの止めてくださいね。・・そういう事するんですよ。この人。」
ステレオ「だから、私はただ単に”どちらにいかれるんですか?”って訊いただけでしょ。それで”荒木さんのところです”って言ったら私は、”ああそうですか、その階段ですよ”って言いますよ。」
「ですから、あたなに道案内頼んでませんって。・・まったく、こういう人が一人いるだけで本当にマンション全体がギクシャクしてしまいますね・・」

これを聞いてステレオおやじは「なんだと!」と言いそうな勢いで腰を浮かせました。
そこでBさんが「まあ、教室に関しても、新しく”なんとかピアノ教室”みたいにさ、看板掲げてやられるのは排除しないとならないんだけど、荒木さんのレッスンに関しては組合として認めるっていうことでどうだろうか」とまとめに入りました。

みなさん、頷いたり、「異議無し」と言ったりして一通り話しは終わりました。

Bさんはステレオおやじに向かってなだめる様に言いました。
「そういうことだから、○○さんもね、まあ今後は、Kさんのとこに貼り紙したりさ、荒木さんの生徒さんに声かけたり、そういのはなしっていうことでいいですか?」
かなり気を使った口調でした。

ステレオおやじはそれに対して、
「私は私の考えで今後もやらせてもらいますよ。もう理事長でもありませんしね。Bさんからとやかく言われる筋合いはありませんから」
と憮然と言い放ちました。
これには一同言葉を失いました。
一体全体、なんという神経の人なんでしょうか。言葉もありません。


本当はステレオの音量のことも糾弾したかったし、他にもいろいろと言ってやりたいtことは山ほどありました。
しかし、マンションの管理組合は所詮”ご近所”の繋がりでしかありませんし、当然ながら基本姿勢は『事なかれ』です。これは責められないことだと思います。
そういう中にあって、私とステレオおやじのトラブルは住人たちにとって、単なるはた迷惑な話しでしかないと思います。
にも関らず、Bさんや理事の方は本当によく親身になってくれたと思います。


さて、総会が終わってからまた日常が続くわけですが、総会で一応結論が出た後、私たちの生活はどうなったのか、それは次回の話しとします。

【つづく】
  
Posted by arakihitoshi at 11:46Comments(2) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月18日

恐怖のステレオおやじ 【16】

お待たせしました。
定期のいつもは3日間なのに今回は恐怖の7連荘練習が連日あったり、さらわなきゃなんない室内楽の曲が譜面台に積んであったり、なんやかやと忙しくしておりまして、更新もままならず・・。
久々の”立体音親父”です。



さて、定期総会まであと1週間ほどのある日、親身になってもっているBさんとマンションの駐車場でばったりと出会いました。
挨拶したあと、こんな会話がありました。

Bさん「こないだね、○○さん(ステレオおやじ)に、荒木さんのこととかさ、Kさんのこともいろいろと話したんだよ」
「いろいろとすいません・・。かえってご迷惑おかけして」
Bさん「いや、いいの。やっぱりみんな気持ちよく住みたいからさ」

私はこの頃、妻と近所の懇意にしている不動産屋さんに頼んで、引越先を当っていたので、Bさんの親切な言葉には胸が痛みました。

「で、どうでした? ○○さん、何か言ってました?」
Bさん「”あなた問題あるから、俺も(理事を)辞めるから、あんたも辞めろ”って言ったんだよ。そしたら○○さん辞めるって言った。」
「え? 意外と物分かりいいんですね・・」
Bさん「”やってらんねー!”って言われた」
「キレられたんですか?」
Bさん「まあ、そうだな・・」

そう言ってBさんは苦笑いしました。
私はBさんまで理事を辞める必要はないし、やめられたら困ると言いましたが、「けじめだから」とBさんは言いました。
Bさんにとっては責任感からの行動とはいえ、ステレオおやじに恨まれて、まったくの損な役回りだったと思います。Bさんには今でも申し訳ない気持ちです。


私はBさんと別れると、部屋への階段を登る前に、奥の駐車場を覗きこみました。
そこにはステレオおやじの駐車スペースがあります。この行動は習慣化していました。この日もステレオおやじは既に帰宅しているらしく、ピカピカに磨かれたシルバーの高級外車が、駐車場に引かれた白い線の内側にピッタリと収まって、端正に停められていました。
私は溜め息とともに階段を登り部屋に入りました。
子供たちが元気に出迎えてくれましたが、上階からは大音量のジャズが、ズ〜〜〜ン!、ズ〜〜〜〜〜ン! と響いてきています。
階下の部屋にもこれだけの音量で聞えてくるわけですから、上の部屋は一体どんな状況なんでしょうか・・・。毎日毎日、そんな大音量の中で暮らして平気なんでしょうか。
TVは午後7時のNHKニュースがついてましたが、上から聞えてくるステレオ音とたいして変わらない音量です。
私はまたツッパリ棒で天井を力任せに数回叩きました。これも日課です。もう上階の住人にどう思われても関係ありません。


さて、総会の日が来ました。
春も浅い3月のある日曜の午前中でした。みぞれ混じりの雨が降っている寒い日でした。
空室になっている部屋を借りて開かれた総会には、管理会社の職員1名と、区分所有者12〜3名ほどが参加しました。
12〜3名という人数は異例の多さです。Bさん達が声をかけて集めだのだと思います。


総会には住人たちが三々五々集まってきました。
入ってくる人たちは挨拶を交わし、ガランとした空き部屋の開いている場所に会釈しながら腰を降ろしていきます。
私は、実家の母に子供たちを見てもらい、妻と二人で参加しました。
Bさんや住人の方たちに挨拶して、窓の近くの場所に腰を降ろしました。
女性社長のKさんの姿もありました。いつものパリッと決まったスーツ姿と違い、この日はスウェットスーツにジャンパーを羽織った室内着です。膝を抱えて壁際に座っていましたが、表情は暗いです。私たと目が合うといつもの笑顔を一瞬見せ挨拶を交わしましたが、また表情は沈んで目を床に落としました。
ステレオおやじは私たちを見つけると露骨に顔を背けました。火の着いていない煙草を手で弄んでいます。小さな携帯灰皿を首から下げていました。
管理会社の中堅世代の男性に何やらボソボソと話しかけています。この管理会社の人は真面目だけど気の弱そうな感じの人です。
この人も、ステレオおやじに悩まされていた一人だと思います。


定刻を少し過ぎた頃、管理会社の人が「では、定刻になりましたので、そろそろ始めさせていただきたいと思います」と口火を切りました。
管理会社の人は続けます。
「それでは、まずわたくしの方から大会の成立をご報告させていただきます。有効票数41で、ご出席が13名様、そして委任状がですね、えーと、25でありまして、本会が間違いなく成立しておりますことをご報告させていただきます。では、理事長さま、あとはお願いいたします」


ステレオおやじのいわゆる理事長挨拶が始まりました。
ステレオおやじは少し間を置くと、意を決したように話し始めました。この時の挨拶は何とも言えなず場違いな雰囲気で、よく覚えています。

「本日はお忙しい中、お集まりいただいて、えー、まことにご苦労さまです。今日は特に多数の出席をいただいてですね、定期総会を開催できますことを嬉しく思います。本日はですね、まあ、環境といいますか、暮らし方のマナーの問題ですね。いろいろあるようですが、本マンションは、第一種低層住居専用地区、風致地区に位置することもあって、区分所有者のみなさんは、とても静かで自然豊かな環境を愛していらっしゃる方々だと思います。またですね、当地区は市内有数の文教地区ですし、常識的な方々が住んでいらっしゃると思うわけです。そうした環境を守る立場で議論がなされることを願っております」

ここで軽い拍手が起こることをステレオおやじは想定していたのかもしれません。
しかし訪れたのは沈黙でした。私はKさんと目が合ってお互い苦笑いしました。


総会は予算と決算の承認など通り一遍の審議が進みました。
ステレオおやじが勝手に業者を手配してしまったという植栽の件は、多少議論というか、質疑応答の時間は設けられましたが、それほど大きな問題にはなりませんでした。
ステレオおやじが今期で理事長を降りることは皆知っていましたし、ステレオおやじが理事長でなければ、来期以降は同じようなことは起きないわけなので、修繕積立て費から2、30万円余計に支出されただけの問題で済むからです。
それでも、「なぜ植栽が必要だったのか」とか「もっと優先順位の高い修繕箇所はあったのでないか」とか意見は出ました。
私も「数万円でも総会の審議を経て支出される修繕費があるのに、一方で20万円以上する植栽が理事長決裁で行われるのはおかしい」と意見を言わせてもらいました。

ステレオおやじは弁明に追われましたが、これから起る議論の前では大した問題ではありません。


予算も決算も承認され、議案書に載っている案件の審議もほぼ終わり、「役員選出の議」になりました。
ステレオおやじやBさんは予定どおり今期限りで役員を辞し、多分予定されていたであろう新役員が選出されました。
理事長は分譲時からの住人のTさんに決まりました。
この方は、とても無口というか挨拶ベタな人で、私もほとんど会話をしたことがなかったのですが、ステレオおやじよりは100倍マシです。


そして総会は「その他」の項目に至りました。
ここでは私やKさんとステレオおやじとの問題が話し合われる予定になっています。
今回の出席者が多いのはその話しをするためなのです。

なのに理事長のステレオおやじは言いました。
「では、全ての審議が終了しました。そろそろお昼も近いですし、どうでしょう、後の問題は後日話し合うとして、ここでひとまず散会としては。」
一同、あまりの見え透いた逃げ口上に一瞬唖然としました。
やはり世の中、恥を知らない人間は強いというか、羨ましいです。

しかし今回はそうはいきませんでした。
みなさん、口々に、「え? なんで?」 「今話しあおうよ」と声があがりました。
ステレオおやじは応えます。「でも、もうお昼ですしね。予定の時間も過ぎていますからね」
「時間はいいですから」とさらに出席者から声が上がりました。
最後にBさんが「○○さんさ、せっかく議決権もらってるんだし、今やっちゃわない? せっかく皆さん集まってもらってるんだし」
一同から「そうだ」と声が上がりました。

ステレオおやじは渋々了承した形で会議が続けられることになりました。


そして、会議はいよいよ、レッスン問題やKさんのペット問題。そしてステレオおやじ当人の問題へと話しが進むのです。

【つづく】  
Posted by arakihitoshi at 01:00Comments(3) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月08日

サンゴ草とか見る

先週、サロマ町の演奏会の前日、少し早く札幌を出て網走湖でカヌーに乗った。
あいにく今にも雨が降りそうな天気だったが、風がなくカヌー日和と言えないこともなかった。

網走湖の呼人キャンプ場でカヌーを組み立てて漕ぎ出した。(下の地図の赤丸の場所)
網走湖3










ここは入り江になっており波もなく初心者にはもってこいの場所である。
どうやら競技などで本格的な方たちの練習場所にもなっているようであった。
呼人キャンプ場は国道沿いにあり駐車場も完備されており、ここでカヌーを組み立てた。
至れり尽くせりでカヌー用と思しき桟橋まであった。

なのでネイチャー度はイマイチである。
半島には散策路しかないが、対岸は国道に接しており常に国道を走る車の音が聞えるし、大きなホテルもある。
係留された漁船や定置網(?)などもあり、現実に引き戻される風景多数であった。

下の写真はカヌー用桟橋
網走湖1










1時間ほど入り江をカヌーで散策した。
湖面は驚くほど静かで鏡面の様だった。ときどき大きな魚がはねたりして驚かされた。入り江の半島側に漕いでいくと車の音も気にならない程度になる。

いよいよ雲行きが怪しくなり撤収しようと思ったらいきなり大雨になった。
カッパを持っていたので助かった。やはりカッパは必需品である。



さて、今回の旅行の収穫は網走湖のカヌーよりも車で移動途中に見た能取湖と藻琴湖の満開のサンゴ草だった。
サンゴ草はご存じのように汽水湖に生息する植物で、考えてみると道東エリアはサロマ湖はじめ汽水湖がやたらと多い。
下の写真は能取湖(のとろこ)で撮った写真。赤いのがサンゴ草。それはそれは見事であった。
近くで見ると本当に珊瑚のような形をしていた。

能取湖













ステレオおやじの連載にお付き合いいただいて心が荒んだ頃でしょうから、一服の清涼剤ネタでした(笑)  
Posted by arakihitoshi at 01:24Comments(1) │ │カヌー・船舶 

2008年09月07日

恐怖のステレオおやじ 【15】

【ご説明】
話しの中に登場するマンションに現在私は住んでおりません。今は一戸建に平和に暮らしております。レッスンご希望の方はご安心ください(^_^;)。



前回からのつづきです。


さて、この頃はステレオおやじにクレームを付けられるのも嫌ですし、総会でステレオおやじの騒音を糾弾するためにも、マンションでのレッスンを一切やめていました。
新規の生徒はほとんど取っていませんでしたし、レッスンも出稽古と札響の練習場がある芸術の森の小練習室を時間借りしてやっていました。
非常に不便でしたし収入にも影響がありました。
しかし、いつステレオおやじが苦情を言いに来るか分からない状況ではおちおちレッスンをしていられません。腹が立ちますが仕方ないです。


前回、Kさんの話してくれた盗撮事件はショックでしたが、その後いろいろ調べたのですが、盗撮盗聴それ自体を取り締まる法律はないそうです。
女性のスカートの中を盗撮したら迷惑条例違反とか、盗撮のために壁に穴を空けたら器物破損とか、会社に盗聴器を仕掛けたら背任とかありますが、Kさんの部屋に向かってビデオを回していたことがはたして犯罪になるのかは微妙です。たぶんならない気がします。
ステレオおやじはその辺の法律知識もあるのかもしれません。


それにしても、ステレオおやじはなぜ他人に対してこれほどまで執拗に厳しいのか。
貼り紙をしたり苦情を言ったりするのは普通の神経の人間にとって決心と勇気のいる行為です。
苦情を言う方も痛みを伴いますし、愉快なことではありません。
相手の行動によってよほど自分が困っているか、あるいは良心に照らして到底看過しがたい行為を相手が行っているか。
いずれの場合も、苦情を言いつづけるには相当なパワーが必要だと思います。

私だけではなく、Kさんや引っ越していったN島さんや、その他にもステレオおやじの攻撃を受けつづけた人は何人もいます。
私と違いKさんは住んでいる棟も違いますし、普通に暮らしていればステレオおやじはKさんと接する事もないでしょうし、ましてKさんが犬を飼っていることでステレオおやじに実害が及ぶとも思えません。
なのに何故それほどまでに労を惜しまず攻撃しつづけられるのか・・。
私にはまったく理解できませんでした。

敢えて想像するなら、あのマンションを偏愛していたから、わずかな規約違反も許せなかった?、住人のモラルの低下はマンションの資産価値を落とす?
動機として思いつくのはそんなところでしょうか。
近隣のマンションにも聞える偏屈おやじの存在のほうがよほどマンションの資産価値を落とすと思うのですが。


前にも書きましたが、ステレオおやじは趣味人です。
いつもピカピカに磨き上げられた趣味性の高い高級外車。
近所の生活道路でも隣に奥さんを乗せて猛スピードで走ります。子供と近所を散歩していると後ろからステレオおやじの車が猛然と走り去っていきます。危ないです。
そして、これまたピカピカに磨いていつも手入れしている輸入自転車。
ベランダにはジャングルの様に溢れんばかりに茂った観葉植物。
そしてステレオ。大音量のジャズ。
ステレオおやじは真空管アンプを使っているので、いつもジャズが聞えはじめた頃は「今日は少し音小さめ?」と思うのですが、10分もすると真空管が暖まってジワ〜ッと音量が上がって、いつもの大音量になります。
夏は窓を開けたままでステレオ聴きくので外にジャズの音が響き渡ります。
ヘビースモーカーでパイプもやります。
ベランダや敷地内ではいつも煙草かパイプを手放しません。
吸い終わった煙草を隣の敷地に投げ棄ててるのを何度か見たことがあります。
人には厳しいけど自分には甘いようです。
もし他人がマンションの敷地内で煙草をポイ捨てしてるのを見たら、黙って見過ごすのでしょうか。


どうもこの人、自分のライフスタイルを自慢しているように見えます。

「オレは自由人!」
団塊世代の一部にこのカテゴリーの人たちいますよね。
そのカテゴリーの人たちのイヤなとこ全部集めたのがステレオおやじ。
私にはそう見えてました。

私に自慢のステレオを「うるさい」って言われて物凄く頭にきたんだと思います。
まだ最初の頃、廊下でステレオの音の話しになった時、
ステレオおやじは私のクレームに対して「気をつけてみますよ」と言った後に、「いいレコード聴かせるよ」と言った事がありました。
ステレオおやじにとって自慢のレコードコレクションが騒音であるはずはなく、彼の人格と言ってもいい存在なんだと思います。
なので、「うるさい」と言われた事は人格を否定されたことにも等しかったのだと思います。
もともと人に何か言われると反射的に反撃してしまう性格と相まって、ステレオおやじ独特の言動があるのでは・・。

上階のステレオ音が鳴り止むことはなく、否が応でもステレオおやじの事を考えずにはいられません。この頃はステレオおやじの人格や行動を色々と分析していました。



今回は内面的な話しになってしまいました。
総会の話しは次回に持ち越しにします。

【つづく】
  
Posted by arakihitoshi at 01:14Comments(6) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月06日

恐怖のステレオおやじ 【14】

【ご説明】
話しの中に登場するマンションに現在私は住んでおりません。今は一戸建に平和に暮らしております。レッスンご希望の方はご安心ください(^_^;)。



さて、前回からのつづきです。


表情をこわばらせたKさんは「実はね・・」と言ってステレオおやじにまつわる驚くべき話しを始めました。
Kさんは室内犬を飼っています。
Kさんとしてはマンションの管理規約にペット禁止という項目があるのは知ってはいるが、小型の室内犬だし、外に出してマンション内を散歩させているわけでもなく、うるさく吠えるわけでもなく、賃貸ではなく区分所有者なので大家に迷惑がかかるわけでもなく、問題はないだろう、という認識だったそうです。

多くの分譲マンションでは、迷惑さえかけなければ室内犬程度は大目に見るというケースがほとんどだし、私も問題ないと思いますが、ここはある程度判断の別れるところかもしれません。

しかしKさんに対するステレオおやじの攻撃は想定されるトラブルの範囲ではなく、執拗というか”異常”だったようです。

数年前のある日、Kさんがいつもの様に仕事から帰ると部屋のドアに「ペットの飼育は禁止です。すぐに止めるように」という貼り紙があったそうです。
貼り紙は数日置きに続き、しばらくするとステレオおやじがKさんの部屋を訊ねて来て、「おたく犬飼ってるでしょ。このマンションはペットの飼育禁止だから。」と言ってきたそうです。
Kさんは、「貼り紙の主はこの人か」と思い、
「今までずっと飼っていて、管理組合の総会でも問題にされたことはないし、なぜ今さら言われなきゃならないんですか?、」と訊ねたそうです。
するとステレオおやじは「多くの住人の方から苦情が出てますよ。総会でもあなたの犬のことが問題になったから」という趣旨のことを言ったそうです。

Kさんはそれを聞いてショックを受けたそうですが、この時期ステレオおやじはまだ組合の理事長にはなっていませんし、東京から戻ってきたばかりの頃です。
もちろん多くの住人の苦情を集約する立場にもありません。Kさんに言ったステレオおやじの発言はそれ自体問題があります。

Kさんは恐る恐る犬を飼い続けましたが、ステレオおやじの貼り紙はなおも続いて、ドアだけではなく、マンション玄関の郵便受けや、ある時は車のワイパーに挟めてあったこともあったそうです。
Kさんは本当にマンション中が敵になったと思い、精神的に追い詰められてだんだんノイローゼ状態になっていったそうです。

Kさんのノイローゼ状態は無理ないです。
今思えば私もノイローゼ状態だったと思います。
とにかく毎日毎日、平日は夕方6時から夜中の1時まで、休日は朝の9時から一日中、天井越しに響き渡ってくるジャズの大音量。「教室禁止」と貼り紙はされるし、チェロの練習を始めると床を踏み鳴らされ、レッスンはまともにできません。
「うるせーぞ!」と叫びながらツッパリ棒で天井を強打している時の私の顔は相当危なかった、と後に妻は証言していました(笑)。
また私は覚えていないのですが、床を踏み鳴らされた時に、防音室から飛び出て階段を駆け登り、ステレオおやじの部屋のドアを思いっきり蹴飛ばした事もあったそうです。覚えていない、というのが今思えば相当危険です。
マンションなどの騒音トラブルが殺人事件に発展するケースもあります。
絶え間ない騒音はストレスをうっ積させます。騒音の主に対する憎悪も手伝って、ある瞬間なにかのきっかけで発作的にストレスが爆発することは意外とたやすい事なのかもしれません。
私は何事もなくて良かった・・・、と胸をなで下ろしています。


さて、ある日のことです。
Kさんが在宅中にいつもはおとなしい犬がキャンキャンと吠えだしたそうです。
不審に思っていると、付き合いのある同じ棟の奥さんから電話があったそうです。
電話を取ると、「ちょっとちょっと、向かいの棟の○○さん、ビデオであなたの家を撮ってるわよ!」と奥さんが教えてくれたそうです。
驚いて向いの棟を見ると、
ステレオおやじの部屋のキッチンの小窓に赤い小さな光が見え、さらによく見ると確かにビデオカメラがKさんの部屋を狙っていたそうです。
犬はこちらを狙っている赤い光に反応して吠えていたらしいです。
赤い光は付いたり消えたりしていたそうなので、犬を吠えさせるためにやっていたのかもしれません。

証拠はありません。
私も聞いた話をそのまま書いているだけです。
しかし、いかにもステレオおやじがやりそうな事です。
犬が吠えている証拠でも作りたかったのでしょう。

Kさんは恐くなって、この時から真剣に引越し先を探しはじめたそうです。
私と立ち話したあの頃は、ちょうど引越先を探している最中でした。


私もこの話しを聞いて考えてしまいました。
たしかにステレオおやじは許せませんが、はたして戦って何とかなる相手なのでしょうか。
そもそも闘うことにどれだけの価値があるのでしょうか。
仮に、漏れてくるステレオ音を測定して、その音が騒音と呼べるレベルであることを証明できたとして、裁判にかけて賠償金が取れるというのでしょうか。
騒音裁判の判例も調べてみましたが、日本のこの手の裁判では騒音を立証することすら困難な状況です。

Kさんの話しを聞いた後、部屋に戻ってまずしたことは、天井の総点検でした。
小さな穴でも開けられていたら嫌なので、天井裏点検口から懐中電灯で各部屋を入念に調べました。
どうやら穴は空いていないようでしたが、この日からステレオおやじに対する感情に”気味の悪さ”が加わりました。


そんなわけで、私も早々に引越しすることをかなり真剣に考えはじめましたが、
一方で、「ステレオおやじが悪いのになんで俺が引っ越さないといけないんだ?」という気持ちも強かったです。
引越には実際にお金もかかります。
そうそう簡単に条件の合う引越先が見つかるわけでもありません。
このマンションに住み続ける事に限界を感じながらも、こうしたジレンマに悩みながら悶々と日々を過ごしていました。


そうしているうちに、マンションの定期総会の日が近づいてきました。
親身になっていただいてるBさんから、「次の総会で、荒木さんのとこのレッスンのことやKさんの犬のことも了承したいから、委任状出さないで出席して欲しい」と言われました。
Bさんは、「Kさんも随分イヤな思いされたみたいだけど、今回は総会に出てもらえるように頼んだ」と言っています。
いつもは委任状多数で議決権が行使される総会ですが、以前お話ししたように、ステレオおやじの理事長に問題があるという事も含めて、住人のみなさんで話し合いが持たれるようです。

それに対してステレオおやじはどう出るのでしょうか。
私やKさんの問題は総会でどう扱われるのでしょうか。
私も言いたいことは山ほどあります。


それからしばらくして、『マンション定期総会 議案書』と書かれた冊子が郵便受けに入っていました。
予算・決算の報告と承認など通り一遍の議案が連なり、最後に”その他の案件”と記してあります。問題はここで話し合われることになるのだと思います。
冊子の最期のページには委任状が添付されています。
「定期大会に 出席します  欠席します」
と書かれた”出席します”を丸で囲み、切り取って管理人室のポストに投函しました。

定期総会はその2週間後です。


次回「恐怖のステレオおやじ」は、その定期総会の模様をつづります。
お楽しみに!

【つづく】
  
Posted by arakihitoshi at 01:54Comments(0) │ │恐怖のステレオおやじ 

2008年09月03日

恐怖のステレオおやじ 【13】

前回からのつづきです。



私はチェロを置いて妻から電話の子機を受けとりました。

私はつとめて無愛想に対応することにしました。いや、努力しても愛想など使えません。と言うより、礼儀や愛想などこの人には逆効果です。かえって足元を見られるだけです。
普通の電話ならば「お電話変わりました」と言うところですが、
この時ばかりは面倒くさそうに「はい」と言い捨てました。

ステレオおやじの無愛想さはさらに上手です。無愛想というより横柄と言ったほうがいいかもしれません。
「ああ、3階の○○だけども」
電話の向こうに薄い唇を尖らせて顎を突き出したステレオおやじの憎々しい丸顔が見えてきそうです。

「なにか?」
ステレオ「お宅の楽器の音さ、上に聞えてちょっとうるさいんだけど」
「それがなにか?」
「それがなにかって?」
と言うとステレオおやじはわざとらしく驚いて呆れた様に鼻で笑いました。


防音室内での楽器の音に関しては、防音室の真下のご隠居夫婦も、防音室の隣が寝室の社長さん夫婦も「ほとんど聞えない。まったくうるさくない」と言ってくれています。
ステレオおやじも数年間、レッスンに関しては苦情を言われましたが練習の音に関して何か言ってきたことはありませんでした。
今さら電話までして「うるさい」と言ってくるのは不自然です。


「いや、うるさいって言ってるんだよ。今日は朝から少し具合が悪くて寝てたんだけどさ、あなたの楽器の音が、特に一番低いG線なのかな? 響いてきてうるさいんだよ」
話し方は一応平静です。声を荒げてはいませんが憎悪に満ちています。
ちなみに一番低いのはG線じゃなくてC線なんだよ。

「うるさいっておっしゃるけど、あなたのステレオの方がずっとうるさいでしょ。私は我慢してますよ。毎日」
私も呼吸を深く保ちながら平静に話す努力を続けました。

私の話しを無視してステレオおやじは続けます。
「昨日も聞えたんだけどさ、けっこう上に響いてるんだよ。あなたの楽器の音が」
「昨日は弾いてませんけど」
「ん? 一昨日だったかな?、とにかくね。レッスンの時も響いてきてるんだよ」
また話しがレッスンになりました。
とにかく私のレッスンを執拗に攻撃してきます。

「レッスンね。あなた、こないだうちに来た客を呼び止めてレッスン禁止がどうっておっしゃったそうだけど、そういうの止めてもらえませんか?」
「レッスンは禁止なんだからそう言っただけでしょ。」
「だから、レッスン禁止じゃないでしょ。教室が禁止なんですよ。分かりませんか?」
「それは詭弁だろ。レッスンしてたら不特定多数の人がマンションに立ち入ってみなさん迷惑するんだよ。騒音以外にもそういう理由もあって規約で禁止されてるわけだから。他の住人や近所のマンションにもしめしがつかないんだよ。」
「あなたがそう思うなら私に直接言えばいいんじゃないですか? 生徒を捕まえて言うのは常識外れでしょ」
「私は、どちらにいかれるんですか?って訊いただけだよ。それで荒木さんのところって言えば、ああそうですか、って言って、その階段ですよ、って案内するわけだからね。」
「誰があなたに道案内頼みました? わざとらしい言い訳しないでもらえます?」
「言い訳じゃないんだよ。私は管理規約をきちんと守るつもりだし、理事長としてみなさんにも規約を守っていただくように注意する義務があるから」


話しは全く平行線です。
この人とは会話が成立しません。私も譲る気ありませんし、たぶん向こうもそうでしょう。

「そうですか、あなたと二人で話しても結論出ないし意味がないので、次回の総会でみなさんのいらっしゃる所で結論出しましょう」
「結論って・・、私は間違ったこと言ってませんよ。当たり前のこと言ってるだけでしょ」
「ですから、もういいです。無駄ですから。総会にはかりましょう」

次回総会でと私が言ったあたりから、ステレオおやじは呆れたようにヘラヘラ笑いながら話しています。常識知らずの困った若造だ、というニュアンスを込めているつもりなのでしょう。
ステレオおやじは「ああ、そうしたいならそうすればいい。とにかく楽器がうるさいこととレッスン禁止なことは伝えたから」と言って電話を切りました。



電話を切られた後も私は楽器の練習を続けました。
すぐに上から例の巨大なハンマーで叩いたような踏み鳴らし音が何発も聞えてきました。
ステレオやテレビならばつけ続けることもできますが、さすがにその状況下で楽器を練習しつづけるのは精神的に限界があり、15分ほどで弾くのをやめてしまいました。
その後、居間で子供とアニメのビデオを見ていると上階からはいつものように大音量のジャズがズ〜〜〜〜ンズ〜〜ンと響いてきました。
さすがに私も苛ついて、発作的に「うるせーな!ちくしょー!」と叫んで、ツッパリ棒で天井を何度か強打しました。
妻が「頼むからやめて」というので止めましたが家にはいられず子供と公園に出掛けました。


これからしばらくはステレオおやじと消耗戦になりそうです。
もともとこういう泥仕合は苦手ではありませんが、以前も書きましたがこの頃は職場では経営破綻や再建にまつわる諸々があったり、プライベートでも亡父が残した厄介ごとに追われて忙殺されていました。
この上、生活の場にまで面倒を持ち込みたくない一心でステレオおやじとのトラブルを避けてきましたが、ことここに至って看過するのが不可能になりました。
自分の生活を守るために戦う決心をする必要がありそうです。


そんなある日、マンションの駐車場で住人の一人の方と挨拶を交わしました。
マスコミ関係の会社の社長さんで、私より7〜8才年長の女性です。
センスのいいキャリアウーマン、という感じの素敵な方です。実は札響も大変お世話になっている会社で、仕事上のお付き合いもあり、その方のことは以前から存じあげていました。仮にKさんとします。

挨拶を交わしたのは夕方の帰宅時間です。
ステレオおやじと違ってお互いに多忙な身の上です。マンション内で顔を合わせることはめったにないのですが、その日は偶然お互いに時間があったので、仕事上のことなど立ち話になりました。
やがて話題が移り、「実は上階の変なおじさんのことでほとほと困ってて・・」
と話しがステレオおやじに及ぶと、Kさんは「それって○○さん?」と言って急に表情を強ばらせました。

そして、Kさんが私にした告白はあまりに衝撃的な内容でした・・。

耳を疑うその告白とは、

【つづく】  
Posted by arakihitoshi at 01:34Comments(9) │ │恐怖のステレオおやじ 
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