2013年01月25日

憧れの団塊

「あらいやだ・・、雨なんて降ってきちゃって」
そう言って彼女は飲みかけのモカマタリに視線を落とした。
下を向いた彼女の瞼に丁寧に引かれた濃い色のアイラインが実は二重になっているのが見えた。
「アイアイ傘であなたを大学に送ろうかしら・・、ふふ、どこかのアベックと間違われちゃうわね」

いい時代だな。羨ましいよ・・・

「アベックと思われてもいいさ。もう親父達の時代とは違うんだ」
「あら、本当はお父さんが怖いんじゃなくて?」
彼女はベージュ色の口紅を塗った格好のいい唇に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねえ、この占いやったことある?」
「喫茶店には必ずあるな、この占い機・・。いや、やったことないよ」
「・・・ツイッギーかい?」
占い機の向こうにホットパンツからすらりと伸びた彼女の長い脚が見えた。太ももの白さを遠慮がちに盗み見ながら俺は言った。
「そうよ、ツイッギーよ」。
彼女は短く答えた。

いいな。ボクもこの時代に青春を送ってみたかったよ・・・。

「パパがね、あなたも誘って一緒に万博に行こうって言うのよ」
「俺もかい? いいな、キミのパパは。考え方が新しいよ。その点うちの親父はダメさ」
「あら、またその話し? ふふ、あたながお父様のこと話す時の目、少し怖いわ・・」
「そうかい?」
俺はジュークボックスから流れてくるグループサウンズに何気なく耳を傾けていた。
「これってビートルズ?」
「え? 違うわ。タイガースよ」
彼女は俺の目を見つめながらクスッと笑った。

なんだか憧れるんだよね。この時代。

「大学に戻るんでしょ?」
そう言って彼女は物憂げに視線を窓の外に移した。信号待ちで止まっている真新しい黒のスカイラインを眺めているように見えた。
「ああ、戻るさ。やっぱりキミも一緒に来ないか?」
「わたしね、あたの言う世界革命とか自己否定とかってよく分からないけど、ヨーコやサッチみたいに喜んで炊事当番する気にもなれないの」
いつものベルボトムにロングヘアーのヨーコが大きな鍋をかき回している姿を思い出しながら俺は言った。
「”俺のため”でもかい?」
「あなたもそういう言い方するのね・・・・、あなたも結局・・」
そこまで言って彼女は言葉を飲み込んだ。
「ヨーコたちだって幹部のだれかのためにやってるのさ。人が尽くす対象として国家やイデオロギーなんて所詮大きすぎるんだよ」
「それも毛沢東語録なの?」
「いや、まさか。糸居伍郎だよ」
「うそ、あなた深夜ラジオなんて聴かないくせに」

【小説ごっこ終了】

この時代は熱さとアンニュイな感じが同居しているような、なんとも大人っぽい雰囲気に見えたんですね。子供の目からは・・・。

さて、1970年頃に20代前半の若者だったのは団塊の世代と言われている人たちですね。
私は1970年前半ころは小学生になるかならないかのガキんちょでしたから、それはもうこの団塊の人たちを憧れのまなざしで見上げていたわけです。
そしてこの時代のTVや街で見るオネエサンたちの、それはそれはセクスィーなイキフン(業界用語で”雰囲気”の意)にガキながら萌えていたのです。
ことに私は今で言うところのクレヨンしんちゃん並にマセていたので、世が世なら「オネエサン、萌え〜〜!」と叫びながらオネエサンの太ももに抱きついていたことでしょう・・。
あ、付け加えるようで恐縮ですが、オニイサンたちの知的で反社会的な感じにも憧れていました。

「お〜〜し!、いつかオラも、レーニンとか読んでミニスカでロングヘアーのオネエサンと付き合うぞ〜、そしてアベックで伊豆に一泊旅行するぞ〜!」 
と、子供心に誓ったものです。実に純真で健気でした・・・。うんうん。

さて、時代は下って平成。

団塊のオニイサン・オネエサンたちは社会の中枢に居座る壮年期になりました。
私から見ると年齢的に彼らは、親世代よりも少し若い、年の離れた兄姉くらいの感じです。
そして、長年彼らは日本社会の中で独特の位置を占めていました。人数が多い上に独特なので反感を買っている向きもありました。

・すぐ世代論を持ち出す。
・な〜んか世代的な特権階級意識を感じる。
・趣味や服装などを通じて自分は自由人だ、とアピールしたがる。
・自由人のアピールとしてジャズやロックを聴く。

などの特徴が団塊の人たちには見られる気がします。
子供の頃憧れていたとはいえ、「われわれ団塊の世代は・・」とこられるとどうも抵抗感を感じるのです。
いや、憧れ余って憎さ百倍的な屈折した感情を抱きます、と言った方が正確かも知れませんが・・。

あ! これはあくまで私の偏見です。
今これを読んで下さっている団塊世代のあなたとは一切関係ありません!(汗
団塊のみなさまに喧嘩を売ろうなどという気持ちも毛頭ございません!(大汗

そんなわけで、
団塊の人たちが愛しているジャズやロック、特にビートルズに対しては長年私は、どうも素直に聴く気が起きなかったのです。
ビートルズに関してはことに、「この曲はポールがジョンと喧嘩している時に作った曲でさ・・」とか細かい蘊蓄を語る熱烈なファンはどうもニガテというのもありました。

それがここに来て、ある変化がおきたのです。

【つづく】

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Posted by arakihitoshi at 01:18Comments(8)TrackBack(0)
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