2008年07月06日

正直言ってよく分かりませんでした・・

昨晩は毎年恒例になった「PMFウェルカムコンサート」があった。

尾高 忠明(指揮)ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)

ウォルトン 戴冠式行進曲「王冠」
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ショスタコーヴィチ 交響曲 第5番 ニ短調 作品47

というプログラムだった。
オケは札響にPMFのアカデミー生たちが若干加わった。

さて、よく分からなかったのはライナー・キュッヘルさんのヴァイオリンである。
キュッヘルさんは言うまでもなく長年ウィーン・フィルのコンマスを務められ、オーケストラプレイヤーとして音楽家として世界最高位に君臨する人である。
だからこそよく分からなかったのであるが、昨日演奏したメンコンは技術的には非常に「?」だった。やれどこそこの部分でつっかかった、とか、どこそこで音程外したとか言うのは下らない事なのだが、けして無視できるほど少なくはなかった。
ウィーン・フィルのコンマスといえども本業はオケ弾き。ソリストではないということを当然ながら考慮に入れても大きな疑問符が浮かんだ。
リハーサル日の最初の演奏は、失礼ながら手に汗握るところもあった。

それにもまして「?」なのが演奏スタイルである。
何というか・・、倍音を沢山出してふくよかに楽器を鳴らして・・という当世の演奏スタイルとは全く違い、音は固めというか、音の出し方も硬いというかなんというか・・・。
あえて例えるならハイフェッツあたりのラッパ管で一発取りした20世紀初頭の大演奏家の復刻版CDを聴いている感じである。
でも、”古い”のではなく、こういうスタイルがいまだ現役で存在しているウィーンというところはやはり凄い!、と考えるべきなのだろうか・・・

いや、そもそも相手はウィーン・フィルのコンマスである。
”下手”などということがあるわけがない・・・。「?」を感じた私の耳が腐っているということなのだろうか・・。疑問など持ってはいけないのだろうか。
しかし、もし仮に、あり得ないけど、メンコンをあの演奏で日本のプロオケのオーディションで弾いたとしたら・・・・、
いや、プロオケまで言わなくても芸大とか桐朋の受験で弾いたら・・・・
少なくとも、技術的には(あくまで技術的には)、少なくともこのレベルのソリストというのはいないわけで、しかし、聴くべきは技術を越えたところにあると、全てを超越した音楽の核心がそこにある・・・と、そういう聴き方をしなければダメなのだろうか・・・・・

しかししかし、素直に「す!凄い!」と感じるところも沢山あった。
例えば、コンチェルトを弾きながらオケに合図を出すあたりは超さすがであった。
「さあ、オマエラ、ここで出なさい」というタイミングをビシバシと作ってくる。オケはズレようがない。
それから、本番では会場を飲み込む凄いパワーのオーラというか”気”というか・・。この手のよく分からない独特のパワーを欧州のオジサン演奏家から感じ取ることはままあるのだが、キュッヘルさんのそれは超ド級と言って憚らないものがあった。さすがである。


はてさて、どう評価したものか・・・
「練習不足なんじゃない?」という声もあったが、たしかに毎年このPMFのシリーズでは、ウィーン・フィルの首席奏者様たちが繰り広げるコンチェルトは、けして充分に準備なさったとは言いがたい大らかなものが多く、その手の演奏は伴奏し慣れているわけだが、そういう演奏は得てして緊張感もなく、大喝采の会場とは裏腹にステージの上も大らかというか日常っぽい雰囲気が漂うものである。
しかし、キュッヘルさんの”気”は大らかというものではなく、非常に密度の濃いものであった。

ウィーン留学組には、ウィーンという街は勤勉とはかけ離れていて本当に彼らは練習しないんだよ。と証言する人も多いが、それはある意味私も当っているのだろうとは思うが、相手はウィーン・フィルである。世界最高峰である。
裏を返して「練習しなくても弾ける」という事なのだろうか。いや、確かに練習しなくても弾けるのだろうが、練習しないと弾けないということもあるわけで・・。
昨年ウィーンに旅行した折り、国立歌劇場でオペラの開演前の開場より早くピットに一番に出てきてずっとさらっていたのはコンマスのキュッヘルさんであった。
やはり勤勉な人なのだな・・、とその時は感心したものだが、穿った見方をすれば本番直前に慌ててさらっている、と見ることもできるわけで、結局のところ真相は分からない。

日本にも、昔有名なオケのコンマスだったとかそういう偉い経歴の人で、いわゆる”ヘタウマ”な演奏をする人はいる。
そういう人の練習してないリサイタルやコンチェルトの本番は、それはそれは酷かったりもする。
しかしまあ、そういう白を黒と言い切ってしまうような、なんというか”ムネオ的”とでも言おうか、そういうふてぶてしいおっさん演奏家の演奏も悪くはないのだが、今回のメンコンはそういう種類のとも違った。もっともっと繊細な色を醸していた。


はてさて、どう評価したものかよく分からない。謎は深まるばかりである。
お客さんの大部分はもちろん大喝采であったわけだが、中には私と同じ感想を持った人もいたのではないだろうか。
今回は日本の地方オケの一平奏者としての分際も省みず、大胆な事を書いてしまった。反応が少し心配である。
それとも、こういう「?」を事を言いだすこと自体が禁句なのだろうか・・・・

新聞や雑誌の評には昨日の演奏はどう書かれるのだろう・・・。



開場直後のウィーン国立歌劇場のオケピット(著者撮影)
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Posted by arakihitoshi at 13:37│Comments(6)││音楽 
この記事へのコメント
うんうんわかるわかる。
何年か前のコンチェルト(ベートーヴェン?)だかを聞いたときにも「え?? あの世界最高峰のオケのコンマステクって・・・???」と。
ズレる下がる間違える足踏みハゲしいし。非常に不安になったものですが。
堂々たる姿と一瞬にして会場を引き込むパワーは凄かった。ものすごーーーーく大きく見えたもの。

・・・気になって仕方ないから注目してたせい・・・ と穿った見方もしてみるが。


謎ですな。
Posted by みちこ at 2008年07月06日 15:10
そうそう。やっぱり分からないですよね。
実際に凄いと感じる部分もたくさんあったし。

他のウィーン・フィル勢は単に”大らかに弾いてらっしゃるな”という感じで理解できるんだけど・・
Posted by あらき at 2008年07月07日 10:27
じいはそれをストランスキーさんのホルンに感じました
事前に手持ちのCDを全部予習していき、その感性を期待していったのですが、「え〜?!」って…
やわらかい音色はさすがに感心させられましたが、ちゃんと練習してきた?と疑問を持たずには聞けなかったです
ウィンナー・ホルンは吹きにくいという定説があるようですが、この来日中に私の印象をふたたび書き換えてから帰ってもらいたいと思います
Posted by じい at 2008年07月07日 12:51
さすがウィーンフィルのコンマス!…楽しませてくれるぜ。と、思いましたです。ヽ(^▽^;)ノ聴いてる側としては、おもしろかったよん。
…ああいう演奏を「ウィーン気質」というのかとも思われ…P席で聴いてもあそこまで音が細かくはっきり聴こえるのは、やっぱり普通の奏者ではないとも思われ…謎はますます深まるのでありました。
Posted by ごまふ at 2008年07月07日 21:21
じい殿>ストランスキーさんに関しては、私は「ウィーン・フィル勢のいつもの大らかなパターン」と理解しましたです。
本場ウィーンでは聴けない大らかな演奏、ということに価値がある!(^_^;)

ごまふ>いやいや、もちろん良かったと思うよ!(汗)。そこに水をさすつもりはもーとーございませんだ・・(^_^;)。
「良かった〜〜」って思った演奏会が新聞評で酷評されてたりしたら、がっかりするもんね!
あくまで「謎」ってことで・・・・(笑)。


Posted by あらき at 2008年07月08日 01:18
荒木先生、すごいスレッド立てて下さっているではないですか!やっぱり乗っていらっしゃる(舞台に)方々も同じ思いだったのかと感心しました。キュッヒルさんのソロについては、演奏後も聴いた方と話題持ちきりで、日付が替わるまで喧々諤々でした。なんだったのでしょうね?前日のソロお2人はいかにも安全運転という感じで、このキュッヒルさんのソロには、技術的な部分を越えたオーラというか、存在感というかそうしたことに感動しました。また、同じソロでも、オケに入って、「英雄の生涯」などのコンマスをなさったらまた別でしょうか?それから、伴奏するオーケストラは大変巧かったですね。この日の札響は特に冴えていたと思います。ショスタコービッチの3楽章の弦楽はお見事でした。私は、以前3楽章なんてなんであるだろう?と全く理解ができない若輩者でしたが、最近は3楽章を中心にこの曲を聴いています。そんなわけで「札響の話題BBS」と同じ結論ですが、期待以上の演奏会で私としては大満足でした。いろんな発見がある演奏会でした。追伸、それにしても弦楽器に皆様にとってハードな二日間でした…。
Posted by 横尾 順 at 2008年07月15日 00:04

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