前回からの続きです。
さて、見たくないものは見なければ済みます。
触りたくないものには触らねばよく、行きたくない所には行かなければいいわけです。
しかし、音はどうでしょう。音は聞きたくなくても耳に入ってきます。耳を塞いでもたかが知れています。
上階から大音量で鳴り響いてくるジャズの音は全く止む気配がありません。
相変わらず、ド〜〜〜ソ〜ドドソ〜〜〜〜〜〜 と、ドとソの音が強調されたベース音が天井を揺るがし、女声ボーカルやピアノの音などが途切れることなく毎日襲いかかってきます。
このマンションから歩いて10分くらいの場所に母の暮らす私が育った実家がありました。
この原稿を書いている今現在は、この実家を建て直して家族で一戸建に住んでいます。
あの頃は、演奏会のない週末はこの実家に非難していました。
週末は朝から夜まで大音量のジャズが鳴っていますのでとてもマンションにはいられませんでした。
平日の夜は、レッスンや自分の練習のために防音室に籠ることが多いので、少なくとも防音室にいる間はステレオ音からは免れていました。
実家と防音室がなければ、あのマンションには住んでいられなかったと思います。
当時、実家を二世帯住宅に立て替える計画が既にありましたが、資金繰りや工務店探しなど超えなければならないハードルもまだ多く、現実味を帯びていませんでした。
仮に立て替えを計画に移したとしても、実際に転居するまでには最短で2年か3年位はかかりそうです。
ステレオおやじへの我慢も限界に来ていたので、それまでの間どこか借家を探して移る事も視野に入れて考えはじめていました。(ただしその場合、余計な資金がかかるので簡単ではありません)
理事長になってからのステレオおやじは、例えば「布団の干し方が悪い」とか、「車の停め方が悪い」とか言っては、住人に注意に行ったり貼り紙をしたりしたそうです。
私のところにも、ある日ステレオおやじが書いたと思われる紙が部屋のドアに貼られていました。
その紙には、マンションの管理規約の「教室としての使用を禁止する」という部分にマーカーが引かれ、その下に「管理規約を遵守すること。以上」と書かれていました。
自分の騒音は棚に上げて、どうしてそこまでやれるのか・・・。
やはり世の中、恥を知らない人間は強いです。
この頃、色々とお世話になっていた同じ棟の方にステレオおやじの件で相談をしたことがありました。
この方は管理組合の理事も長年やっていた人で信頼できる人です。分譲時からの住人でもあります。
私のレッスンに関しても、依然お話ししたN島さんの家の犬の件でも、とても私たちに同情的で、ステレオおやじの横暴ぶりを非難していました。
ちなみに、私の部屋の楽器の音は、隣や階下の方に確認しても全く気にならない程度、という答えも貰っていました。
隣の部屋の社長さんの奥さんなどは、「ホントは漏れてくる音を聴きたいのに、全く聞えないのよ。残念だわ」という優しいお言葉。やはり綺麗な人は言うことも美しいです。
実際は、隣室にはほとんど聞えない程度、
階下には、少しは聞えるが気にならない程度、
くらいだったようです。
どうやらステレオおやじ問題に、やっとマンション全体の問題に発展しそうな兆しが見えてきました。
なので、意を強くした私は前回の怒鳴りつけられ事件があった後、ステレオおやじに対して気を使うのを止めました。
マンションの廊下で出会っても露骨に無視したり、挨拶の代わりに「ステレオうるさいんですけど」と言わせてもらう事もありました。
要するにイヤな態度に出ることにしました。わずかな礼儀でもステレオおやじに対して使いたくはありません。
もっとも、相手はキレ癖のある人なので一定の注意は必要だとは思いましたが。
こうしてステレオおやじを非難するための周囲のコンセンサス作りに動きはじめました。
しかしそれが裏目に出ました。
そうした動きを察知したステレオおやじはある行動にでます・・・・。
『マンションでのレッスンを諦めざるを得ない状況』とはそのことなのですが、
【つづく】