2008年09月06日

恐怖のステレオおやじ 【14】

【ご説明】
話しの中に登場するマンションに現在私は住んでおりません。今は一戸建に平和に暮らしております。レッスンご希望の方はご安心ください(^_^;)。



さて、前回からのつづきです。


表情をこわばらせたKさんは「実はね・・」と言ってステレオおやじにまつわる驚くべき話しを始めました。
Kさんは室内犬を飼っています。
Kさんとしてはマンションの管理規約にペット禁止という項目があるのは知ってはいるが、小型の室内犬だし、外に出してマンション内を散歩させているわけでもなく、うるさく吠えるわけでもなく、賃貸ではなく区分所有者なので大家に迷惑がかかるわけでもなく、問題はないだろう、という認識だったそうです。

多くの分譲マンションでは、迷惑さえかけなければ室内犬程度は大目に見るというケースがほとんどだし、私も問題ないと思いますが、ここはある程度判断の別れるところかもしれません。

しかしKさんに対するステレオおやじの攻撃は想定されるトラブルの範囲ではなく、執拗というか”異常”だったようです。

数年前のある日、Kさんがいつもの様に仕事から帰ると部屋のドアに「ペットの飼育は禁止です。すぐに止めるように」という貼り紙があったそうです。
貼り紙は数日置きに続き、しばらくするとステレオおやじがKさんの部屋を訊ねて来て、「おたく犬飼ってるでしょ。このマンションはペットの飼育禁止だから。」と言ってきたそうです。
Kさんは、「貼り紙の主はこの人か」と思い、
「今までずっと飼っていて、管理組合の総会でも問題にされたことはないし、なぜ今さら言われなきゃならないんですか?、」と訊ねたそうです。
するとステレオおやじは「多くの住人の方から苦情が出てますよ。総会でもあなたの犬のことが問題になったから」という趣旨のことを言ったそうです。

Kさんはそれを聞いてショックを受けたそうですが、この時期ステレオおやじはまだ組合の理事長にはなっていませんし、東京から戻ってきたばかりの頃です。
もちろん多くの住人の苦情を集約する立場にもありません。Kさんに言ったステレオおやじの発言はそれ自体問題があります。

Kさんは恐る恐る犬を飼い続けましたが、ステレオおやじの貼り紙はなおも続いて、ドアだけではなく、マンション玄関の郵便受けや、ある時は車のワイパーに挟めてあったこともあったそうです。
Kさんは本当にマンション中が敵になったと思い、精神的に追い詰められてだんだんノイローゼ状態になっていったそうです。

Kさんのノイローゼ状態は無理ないです。
今思えば私もノイローゼ状態だったと思います。
とにかく毎日毎日、平日は夕方6時から夜中の1時まで、休日は朝の9時から一日中、天井越しに響き渡ってくるジャズの大音量。「教室禁止」と貼り紙はされるし、チェロの練習を始めると床を踏み鳴らされ、レッスンはまともにできません。
「うるせーぞ!」と叫びながらツッパリ棒で天井を強打している時の私の顔は相当危なかった、と後に妻は証言していました(笑)。
また私は覚えていないのですが、床を踏み鳴らされた時に、防音室から飛び出て階段を駆け登り、ステレオおやじの部屋のドアを思いっきり蹴飛ばした事もあったそうです。覚えていない、というのが今思えば相当危険です。
マンションなどの騒音トラブルが殺人事件に発展するケースもあります。
絶え間ない騒音はストレスをうっ積させます。騒音の主に対する憎悪も手伝って、ある瞬間なにかのきっかけで発作的にストレスが爆発することは意外とたやすい事なのかもしれません。
私は何事もなくて良かった・・・、と胸をなで下ろしています。


さて、ある日のことです。
Kさんが在宅中にいつもはおとなしい犬がキャンキャンと吠えだしたそうです。
不審に思っていると、付き合いのある同じ棟の奥さんから電話があったそうです。
電話を取ると、「ちょっとちょっと、向かいの棟の○○さん、ビデオであなたの家を撮ってるわよ!」と奥さんが教えてくれたそうです。
驚いて向いの棟を見ると、
ステレオおやじの部屋のキッチンの小窓に赤い小さな光が見え、さらによく見ると確かにビデオカメラがKさんの部屋を狙っていたそうです。
犬はこちらを狙っている赤い光に反応して吠えていたらしいです。
赤い光は付いたり消えたりしていたそうなので、犬を吠えさせるためにやっていたのかもしれません。

証拠はありません。
私も聞いた話をそのまま書いているだけです。
しかし、いかにもステレオおやじがやりそうな事です。
犬が吠えている証拠でも作りたかったのでしょう。

Kさんは恐くなって、この時から真剣に引越し先を探しはじめたそうです。
私と立ち話したあの頃は、ちょうど引越先を探している最中でした。


私もこの話しを聞いて考えてしまいました。
たしかにステレオおやじは許せませんが、はたして戦って何とかなる相手なのでしょうか。
そもそも闘うことにどれだけの価値があるのでしょうか。
仮に、漏れてくるステレオ音を測定して、その音が騒音と呼べるレベルであることを証明できたとして、裁判にかけて賠償金が取れるというのでしょうか。
騒音裁判の判例も調べてみましたが、日本のこの手の裁判では騒音を立証することすら困難な状況です。

Kさんの話しを聞いた後、部屋に戻ってまずしたことは、天井の総点検でした。
小さな穴でも開けられていたら嫌なので、天井裏点検口から懐中電灯で各部屋を入念に調べました。
どうやら穴は空いていないようでしたが、この日からステレオおやじに対する感情に”気味の悪さ”が加わりました。


そんなわけで、私も早々に引越しすることをかなり真剣に考えはじめましたが、
一方で、「ステレオおやじが悪いのになんで俺が引っ越さないといけないんだ?」という気持ちも強かったです。
引越には実際にお金もかかります。
そうそう簡単に条件の合う引越先が見つかるわけでもありません。
このマンションに住み続ける事に限界を感じながらも、こうしたジレンマに悩みながら悶々と日々を過ごしていました。


そうしているうちに、マンションの定期総会の日が近づいてきました。
親身になっていただいてるBさんから、「次の総会で、荒木さんのとこのレッスンのことやKさんの犬のことも了承したいから、委任状出さないで出席して欲しい」と言われました。
Bさんは、「Kさんも随分イヤな思いされたみたいだけど、今回は総会に出てもらえるように頼んだ」と言っています。
いつもは委任状多数で議決権が行使される総会ですが、以前お話ししたように、ステレオおやじの理事長に問題があるという事も含めて、住人のみなさんで話し合いが持たれるようです。

それに対してステレオおやじはどう出るのでしょうか。
私やKさんの問題は総会でどう扱われるのでしょうか。
私も言いたいことは山ほどあります。


それからしばらくして、『マンション定期総会 議案書』と書かれた冊子が郵便受けに入っていました。
予算・決算の報告と承認など通り一遍の議案が連なり、最後に”その他の案件”と記してあります。問題はここで話し合われることになるのだと思います。
冊子の最期のページには委任状が添付されています。
「定期大会に 出席します  欠席します」
と書かれた”出席します”を丸で囲み、切り取って管理人室のポストに投函しました。

定期総会はその2週間後です。


次回「恐怖のステレオおやじ」は、その定期総会の模様をつづります。
お楽しみに!

【つづく】


Posted by arakihitoshi at 01:54│Comments(0)││恐怖のステレオおやじ 

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