お待たせしました。
定期のいつもは3日間なのに今回は恐怖の7連荘練習が連日あったり、さらわなきゃなんない室内楽の曲が譜面台に積んであったり、なんやかやと忙しくしておりまして、更新もままならず・・。
久々の”立体音親父”です。
さて、定期総会まであと1週間ほどのある日、親身になってもっているBさんとマンションの駐車場でばったりと出会いました。
挨拶したあと、こんな会話がありました。
Bさん「こないだね、○○さん(ステレオおやじ)に、荒木さんのこととかさ、Kさんのこともいろいろと話したんだよ」
私「いろいろとすいません・・。かえってご迷惑おかけして」
Bさん「いや、いいの。やっぱりみんな気持ちよく住みたいからさ」
私はこの頃、妻と近所の懇意にしている不動産屋さんに頼んで、引越先を当っていたので、Bさんの親切な言葉には胸が痛みました。
私「で、どうでした? ○○さん、何か言ってました?」
Bさん「”あなた問題あるから、俺も(理事を)辞めるから、あんたも辞めろ”って言ったんだよ。そしたら○○さん辞めるって言った。」
私「え? 意外と物分かりいいんですね・・」
Bさん「”やってらんねー!”って言われた」
私「キレられたんですか?」
Bさん「まあ、そうだな・・」
そう言ってBさんは苦笑いしました。
私はBさんまで理事を辞める必要はないし、やめられたら困ると言いましたが、「けじめだから」とBさんは言いました。
Bさんにとっては責任感からの行動とはいえ、ステレオおやじに恨まれて、まったくの損な役回りだったと思います。Bさんには今でも申し訳ない気持ちです。
私はBさんと別れると、部屋への階段を登る前に、奥の駐車場を覗きこみました。
そこにはステレオおやじの駐車スペースがあります。この行動は習慣化していました。この日もステレオおやじは既に帰宅しているらしく、ピカピカに磨かれたシルバーの高級外車が、駐車場に引かれた白い線の内側にピッタリと収まって、端正に停められていました。
私は溜め息とともに階段を登り部屋に入りました。
子供たちが元気に出迎えてくれましたが、上階からは大音量のジャズが、ズ〜〜〜ン!、ズ〜〜〜〜〜ン! と響いてきています。
階下の部屋にもこれだけの音量で聞えてくるわけですから、上の部屋は一体どんな状況なんでしょうか・・・。毎日毎日、そんな大音量の中で暮らして平気なんでしょうか。
TVは午後7時のNHKニュースがついてましたが、上から聞えてくるステレオ音とたいして変わらない音量です。
私はまたツッパリ棒で天井を力任せに数回叩きました。これも日課です。もう上階の住人にどう思われても関係ありません。
さて、総会の日が来ました。
春も浅い3月のある日曜の午前中でした。みぞれ混じりの雨が降っている寒い日でした。
空室になっている部屋を借りて開かれた総会には、管理会社の職員1名と、区分所有者12〜3名ほどが参加しました。
12〜3名という人数は異例の多さです。Bさん達が声をかけて集めだのだと思います。
総会には住人たちが三々五々集まってきました。
入ってくる人たちは挨拶を交わし、ガランとした空き部屋の開いている場所に会釈しながら腰を降ろしていきます。
私は、実家の母に子供たちを見てもらい、妻と二人で参加しました。
Bさんや住人の方たちに挨拶して、窓の近くの場所に腰を降ろしました。
女性社長のKさんの姿もありました。いつものパリッと決まったスーツ姿と違い、この日はスウェットスーツにジャンパーを羽織った室内着です。膝を抱えて壁際に座っていましたが、表情は暗いです。私たと目が合うといつもの笑顔を一瞬見せ挨拶を交わしましたが、また表情は沈んで目を床に落としました。
ステレオおやじは私たちを見つけると露骨に顔を背けました。火の着いていない煙草を手で弄んでいます。小さな携帯灰皿を首から下げていました。
管理会社の中堅世代の男性に何やらボソボソと話しかけています。この管理会社の人は真面目だけど気の弱そうな感じの人です。
この人も、ステレオおやじに悩まされていた一人だと思います。
定刻を少し過ぎた頃、管理会社の人が「では、定刻になりましたので、そろそろ始めさせていただきたいと思います」と口火を切りました。
管理会社の人は続けます。
「それでは、まずわたくしの方から大会の成立をご報告させていただきます。有効票数41で、ご出席が13名様、そして委任状がですね、えーと、25でありまして、本会が間違いなく成立しておりますことをご報告させていただきます。では、理事長さま、あとはお願いいたします」
ステレオおやじのいわゆる理事長挨拶が始まりました。
ステレオおやじは少し間を置くと、意を決したように話し始めました。この時の挨拶は何とも言えなず場違いな雰囲気で、よく覚えています。
「本日はお忙しい中、お集まりいただいて、えー、まことにご苦労さまです。今日は特に多数の出席をいただいてですね、定期総会を開催できますことを嬉しく思います。本日はですね、まあ、環境といいますか、暮らし方のマナーの問題ですね。いろいろあるようですが、本マンションは、第一種低層住居専用地区、風致地区に位置することもあって、区分所有者のみなさんは、とても静かで自然豊かな環境を愛していらっしゃる方々だと思います。またですね、当地区は市内有数の文教地区ですし、常識的な方々が住んでいらっしゃると思うわけです。そうした環境を守る立場で議論がなされることを願っております」
ここで軽い拍手が起こることをステレオおやじは想定していたのかもしれません。
しかし訪れたのは沈黙でした。私はKさんと目が合ってお互い苦笑いしました。
総会は予算と決算の承認など通り一遍の審議が進みました。
ステレオおやじが勝手に業者を手配してしまったという植栽の件は、多少議論というか、質疑応答の時間は設けられましたが、それほど大きな問題にはなりませんでした。
ステレオおやじが今期で理事長を降りることは皆知っていましたし、ステレオおやじが理事長でなければ、来期以降は同じようなことは起きないわけなので、修繕積立て費から2、30万円余計に支出されただけの問題で済むからです。
それでも、「なぜ植栽が必要だったのか」とか「もっと優先順位の高い修繕箇所はあったのでないか」とか意見は出ました。
私も「数万円でも総会の審議を経て支出される修繕費があるのに、一方で20万円以上する植栽が理事長決裁で行われるのはおかしい」と意見を言わせてもらいました。
ステレオおやじは弁明に追われましたが、これから起る議論の前では大した問題ではありません。
予算も決算も承認され、議案書に載っている案件の審議もほぼ終わり、「役員選出の議」になりました。
ステレオおやじやBさんは予定どおり今期限りで役員を辞し、多分予定されていたであろう新役員が選出されました。
理事長は分譲時からの住人のTさんに決まりました。
この方は、とても無口というか挨拶ベタな人で、私もほとんど会話をしたことがなかったのですが、ステレオおやじよりは100倍マシです。
そして総会は「その他」の項目に至りました。
ここでは私やKさんとステレオおやじとの問題が話し合われる予定になっています。
今回の出席者が多いのはその話しをするためなのです。
なのに理事長のステレオおやじは言いました。
「では、全ての審議が終了しました。そろそろお昼も近いですし、どうでしょう、後の問題は後日話し合うとして、ここでひとまず散会としては。」
一同、あまりの見え透いた逃げ口上に一瞬唖然としました。
やはり世の中、恥を知らない人間は強いというか、羨ましいです。
しかし今回はそうはいきませんでした。
みなさん、口々に、「え? なんで?」 「今話しあおうよ」と声があがりました。
ステレオおやじは応えます。「でも、もうお昼ですしね。予定の時間も過ぎていますからね」
「時間はいいですから」とさらに出席者から声が上がりました。
最後にBさんが「○○さんさ、せっかく議決権もらってるんだし、今やっちゃわない? せっかく皆さん集まってもらってるんだし」
一同から「そうだ」と声が上がりました。
ステレオおやじは渋々了承した形で会議が続けられることになりました。
そして、会議はいよいよ、レッスン問題やKさんのペット問題。そしてステレオおやじ当人の問題へと話しが進むのです。
【つづく】