2008年09月28日

恐怖のステレオおやじ 【18】

前回からのつづきです。


総会ではある程度言いたいことが言えました。
ステレオおやじも理事長を辞めることになりましたし、私のレッスンやKさんのペット問題も晴れてマンション公認となったわけです。

しかし、その後の生活にめざましい変化があったわけではありません。
上階の大音量のステレオは相変わらず鳴りやむことはありません。
レッスンもマンションでやることはほとんどありませんでした。公認されたとはいえ、ステレオおやじは総会で「これからも私は私のやり方でやる」と言っていました。いつ生徒がステレオおやじに因縁をつけられるかも分かりません。
それに、気の小さい話しではありますが、練習中やレッスン中に電話の音や玄関のベルが鳴ると、またステレオおやじが来たのかと思ってドキッとします。


マンションの共用部分では、なるべくステレオおやじと会わないように注意しながら行動しました。
それでもたまにハチ合わせることもありました。
そういう時はお互いに無視しあうのですが、向こうは私と一瞬目が合うと視線を上にそらします。これはバカにされている感じがしてかなりイヤな視線のそらし方です。
私もすれ違いざまに「あ〜あ」と溜め息をついたりしてみましたが、どちらにしても消耗戦です。


上階からのステレオ音に腹を立てて、ツッパリ棒で天井を叩くのは相変わらずやっていましたが、この頃はすでにステレオおやじとの攻防にも目的を喪失していました。

ある日、夜の10時頃に家に帰ると、警官が二人マンションの階段を登って行きました。3Fはステレオおやじの部屋しかありませんから、行き先はそこしか考えられません。
何事かと思い、ドアを半開きにして玄関でしばらく上階から聞える会話に耳を澄ましていました。
会話は途切れ途切れに聞えてきます。
警官は丁寧な口調で、「○○さーん、ステレオの音が少々大きいみたいなんですけど」
ステレオおやじの声はくぐもってよく聞き取れません。
「はい? いえ、・・・そんなに・・ですかね・・、はあ、」
警官「ご近所から・・・、ええ、そうなんですよ。10時も過ぎてますしね、われわれとしては・・・、ええ、そうなんですよ」


どうやら近所から警察に苦情が行って警官が注意にきたようでした。
私は胸のすく思いで、笑ながら妻に報告しました。
このマンションの隣は銀行の研修寮だったのですが、この前年にその土地が売られて、分譲マンションが建ちました。
なので、苦情の主は私の住むマンションの住人なのか、それとも隣のマンションの住人なのかは分かりません。

この日から1週間くらいはステレオ音は確かに少し小さくなりました。
しかし予想通り、2〜3週間もするとすっかり元どおりの音量に戻りました。
本人に”騒音”の自覚がないのですから仕方ありません・・・。


ペット問題で被害にあっていた女性社長のKさんと、財界の方が多く出席するある新春パーティーで偶然お会いしました。(本来私の身分では参加できない席ですが、演奏も兼ねてこういう場所に出入りする事があります)
Kさんは、あの総会でお見かけしたスエット姿とはまったく別人の、いつものぱりっとした素敵なKさんでした。
Kさんは一緒にいた友人らしい方に私を紹介してくれました。
Kさん「札響の荒木さん、私と同じマンションなの。そう、友人っていうか戦友よね」
私「あはは、そうですね。どうですか? その後ステレオおやじはおとなしくなりました?」
Kさん「うんうん、お蔭様で。荒木さんがポンポン言ってくれたから本当にスッキリしたわ!、それでね、やっとこないだ引越先が見つかって」
私「え? 引っ越すんですか?」
Kさん「そうなの〜、実はずっと引越先探してて」
私「え〜〜! いいな〜。あのマンション脱出?」
Kさん「そう。脱出。さらばステレオおやじ!」

Kさんは来週にも引っ越すそうです。
この時はKさんの晴れ晴れとした顔がとても羨ましかったです。


ちょうどこの頃、テレビのワイドショーで「騒音おばさん」というのが話題になっていました。
YouTubuへリンク  http://jp.youtube.com/watch?v=XiTAD4mQrg4
このくらい確信犯的にやってもせいぜい懲役3ヶ月。ラジカセ没収。(※)

一方でステレオおやじを法的に裁くことは可能なのでしょうか。言うまでもなく、日本では不可能です。

やはりこの頃、ある本に出会いました。
「近所がうるさい!」 橋本典久著 ベスト新書


著者は、八戸工業大学大学院建築学の教授で、”騒音ジャーナリスト”という肩書きもお持ちです。そして、アマチュアのチェロ奏者でもあるそうです。

本のカバーにはこう書かれています(抜粋)
『ひとたび、音が「騒音」として身体の内に入ってくると、それは「異物=敵」として認識され、気にしないでいることが極端に難しくなる。そして、騒音の被害者ばかりか、注意を受けた加害者の方も「あの程度の音で文句を言いにきて」と、いつしか、騒音トラブルはどろどろの人間トラブルへと変質していく。・・・・・』

この抜粋だけでも、私とステレオおやじのしこった騒音トラブルを言い当てているようです。
実のところこの本には本当に救われました。騒音トラブルがとても科学的に分析された本でした。
私とステレオおやじのトラブルも、実は一つの騒音トラブルの典型に過ぎず、それを知ることによって、ステレオおやじに意地でも負けてなるものか! という気持ちが、とてもケチなものに思えてきて、怒りが氷解していった気がします。
騒音問題で悩む方必読の、面白くてためになる良書です。お薦めします。



実家を改築するか壊して建て替えるかして、母と私の家族が住む二世帯住宅にするにはまだ少なくとも1年から2年はかかりそうです。

1400万円で購入したマンションにかかる経費は・・、
不動産屋への仲介手数料は1400万円×3%+6万円
登記にかかった費用がざっくりと20万円くらい。
7年間住んだとして・・・・、
まあ、この場所に賃貸で住んだ値段とちょうど同じか少し安いくらい。
ならば、すぐに引越を決断するべきです。

この後、一軒家を借りた場合に、
実家の建て替えまでとして、2年はその借家に住まないわけだから、敷金は返還されず、不動産仲介料と、マンションが売れるまでのローンの二重払い期間は、そっくり”損”になるわけです。

このままマンションに住み続けて、建て替えた実家に引っ越す場合と比較して、ざっくりと120〜130万円くらい損をする計算です。

それでも、一刻も早く近所の一軒家を賃貸して引っ越す選択を私は選びました。
経済的な損失はともかく、引越にまつわる手間は相当なものですが、それでも、この下らないステレオおやじとの攻防に終止符を打ちたい気持ちが勝ちました。


次回はいよいよ最終回【エピローグ】です。

決断してその後どうなったのかを綴りたいと思います。お楽しみに。


(※)騒音おばさんに関しては、その後マスコミやネットでいろいろな扱いがなされ、現在では評価が分かれていますが、あくまでもこの時点でのお話しです。

Posted by arakihitoshi at 01:36│Comments(1)││恐怖のステレオおやじ 
この記事へのコメント
いよいよ荒木先生の連載も大詰めですね。お疲れ様でございました。このエッセイを拝読すると、住環境というのは本当に大切だと痛感しました。実際経済的な損失も大変なものですね。この期間は随分負の時間だったと思いますが、この後は良いことがたくさんあると思います。
Posted by よこおじゅん at 2008年09月28日 20:05

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