筒井康隆は中学生とか高校生の頃大好きだった。
初期から中期の短編集やエッセイ集なんかは、それこそ繰り返し読んだものだ。
「おれに関する噂」が表題作の短編集もそのひとつ。
”平凡な会社員”の森下ツトムの一挙手一投足が、ある日を境に何故かマスコミで全国に報じられるようになる。
『森下ツトムさん、美人タイピストの美川さんとデート』
『森下さん、久しぶりにウナギを食べる』
といった具合だったと思う。
今日の「おれに関する噂」の”おれ”は、私、荒木均である。
財団法人札幌交響楽団のヒラのチェロ奏者なんて大した有名人とも思わないが、芸能人やTVのアナウンサーには遠く及ばないまでも、少しは世間に顔が出る仕事だ。
おれがファミレスで食事してる時とか、本屋で立ち読みしてる時なんかに、「あ!アンタ知ってる!、サッキョーの人だ!」という顔で知らない人にギョッとした表情で見られることは、たまにだがある。
微妙に顔バレしているということだ。
なので、”ワルいことはできない”。
おれも、エロい本を立ち読みしないように・・とか、少しは行動に気をつけているつもりだ。
随分前になるが、オケの本番前の舞台裏におれ宛てに大きな花束が届いたことがあった。
差出人は行ったこともないキャバクラのキャバクラ嬢。当然名前も知らない。全く身に覚えもない。
どうやら、そのキャバクラでどこのどいつか知らない野郎が勝手におれの名前を名乗ったらしい。
同僚たちからは、「荒木〜〜〜、キャバクラで名刺バラ撒くなよ〜」と散々からかわれた(笑)。
まあ、このエピソードはまだいい。微笑ましい部類だ。
「なんだ、札響のチェロ奏者って金は無いけど(笑)そう悪くもないんだ・・」、って思って勇気づけられる。
そんなこんなで、おれに関する噂を聞くのは、仮にデマでもスリリングで楽しいものだ。
しかし、こないだ耳にしたおれに関する噂はちょっとかっこ悪い。
その噂によると、どうやら俺は、数年前に札幌の某大学の女子大生と浮気して、それがあろうことかカミサンにバレて、カミサンはその女子大生の所に怒鳴り込みに行ったらしい!。
この噂はアマオケに在籍する人から聞いた話しだが、かなり有名な話しらしい・・・。
「センセ〜〜、大変だったらしいですね〜」とニヤニヤしながら言われ、
「え!!?、なに?なに? なにが大変だったの??」と焦るおれ・・。
その教えてくれた人曰く、本人から聞いた話しだというからますますタチが悪い。(その人が誰なのかハッキリとは教えてもらえなかったが・・)
まあ、全国に一万人の愛人がいるおれだから、多少のことでは驚かないが、頼むからもう少しマシな噂にしてくれ!
例えばこうだ。
『荒木さんがね、こないだ小樽の超リッチな海の見えるレストランに連れていってくださったの。だってほら、彼って海の男でしょ・・法律上は。 ハーバーライトを見つめる彼の横顔・・、素敵だったわ〜〜』
こんな感じだったら黙認しよう。
たかがおれにしてこうなんだから、
本物の芸能人やスポーツ選手なんかは、さぞいろいろあるんだろうな・・・・。