さて、今日はまずこの動画をごらんください。
どうです? これ。
私は激しく言いたい。
「ヴァイオリンは俺が弾くからおまえは部屋を掃除しろ!」と。
そしてこの動画。
「むやみに触ると・・、セクハラですよ! うふ」
・・・・ なにが「うふ」じゃ! どあほ!! 誰がおまえなんか触るか!!
いや。触るだけならちょっと触ってみたいかな・・。
最近のロボット工学はおかしな方向に向かってないか!
そもそもロボットとはこの様な姿であるべきである!。
手塚治虫「火の鳥」復活編 より
ロボットとはこのロビタの様な姿で、掃除や選択やご飯を作ったり、危険な任務についたり、力仕事をしたり・・・。
そして人間様はクリエイティブな作業に専念できるのである。
しかるに、最近のロボット共ときたら、満足にメシも作れないくせにヴァイオリンを弾くだの、「セクハラですよ! うっふ〜〜ん」とか言って色気づいて人間の領域に入り込んでこようとする。
われわれが欲しいロボットはそういうロボットではないのである。
いや、少しはあ〜んなことやこ〜んなことを妄想するロボットも欲しいのかもしれないが、基本的には違うのである。
もっとメカメカっちい、いかにもロボットしてるロボットがいいのである。
ヴァイオリンロボットは置いておいたとしても、今の現実社会でも機械化によって生身の演奏家の活動領域が犯されている現状もある。
記憶に新しいところでは、2007年のブロードウェイのミュージシャンなどで作るステージユニオンによる大規模なストライキだ。ステージバンドの雇用人数をめぐる労使紛争だった。(詳しくはググってちょ)
身近なところでも、阪急電鉄による宝塚歌劇オーケストラの大幅な人員削減などがあった。
雇用者側には経営上の、被雇用者側には生活の、それぞれ主張があるのは分かる。しかし生演奏をコンピューターによる打ち込みやシンセサイザーに置き換えることによる音楽的損失に異論を唱える人はいないはずだ。
前置きが長くなったが、季刊「ゴーシュ」連載の”クラヲタへの道”、3月発売号のネット掲載解禁日になった。
この巻のネタは上記のようなロボット問題である。
前回”ラスト・オーケストラサムライ”同様、小説仕立てである。
それでは、長々しい前置きの背景が通奏低音的にあることをお含みおきいただいた上で、お読みください。ちなみにモデルは札響のヴァイオリニスト福井岳雄さんである(爆)。
『ラスト オーケストラサムライ 2 』
20××年某日。ロボット法が施行されて10年。
俺は1960年式ビートルをキタラの楽屋口に横づけした。空冷式のけたたましいエンジン音が中島公園の静寂を引き裂いた。この音に眉をしかめる連中もいるが、かまうことはない。
トンダ製の車が駐車場の線に沿って整然と並んでいる。「どれもこれも同じような形をしやがって・・・」。これを見ると胸が悪くなる。
俺はビートルを横づけしたままヴァイオリンを持って楽屋口の階段を登り、ドアを足で蹴り開けた。警備員は驚きもせず無表情に俺を眺めると、「おはようございます。よい天気ですね。」と無機質な笑みを浮かべた。
出演者ラウンジでは楽員たちが所定の場所でウォーミングアップをしている。俺の存在を認識すると楽器を弾く手を止め、「おはようございます」といんぎんに挨拶してきやがる。「なにが『オハヨウゴザイマス』だ。いっぱしの口ききやがって」。俺はくわえていた煙草を楽員のひとりめがけて投げつけた。火の付いた煙草はそいつの顔に命中したが、かまうことはない。その楽員は何事もなかったように再びウォーミングアップに戻った。
21世紀のごく早い時期。自動車メーカーのトンダは世界に先がけて、トランペットを吹くロボットを開発した。最初は皆、楽器ロイドをバカにしていた。俺もそうだった。間違わない演奏と芸術性の高い演奏はまったく別の次元の話しだ。しかし、トンダ主催のある演奏会で「展覧会の絵」のトランペットを楽器ロボに吹かせる、という企画が大当たりし、それをきっかけにオーケストラ業界は、楽員を楽器ロイドに入れ替えていったのだ。人件費ばかりかさみ何かとやっかいな人間の楽員よりロボットの方がいいというわけだ。
しかし、ある時期を境にオーケストラの客離れが始まった。完璧過ぎる楽器ロイドたちの演奏は退屈で眠気を誘う・・、と聴衆は言い出した。まったく勝手なものだ。今ごろ気がついても遅すぎる。人間は俺ひとりになっちまったぜ。
かつてこの舞台は楽員たちの人間臭いドラマで溢れていた。悲喜交々、演奏の出来に一喜一憂したり、そんな日常を共有してこそオーケストラは成長するのだ。俺はそんな職場が好きだった・・。
おっと、おセンチな思い出話はここまでだ。ロボ公に聞かせても分かるわけがない。
俺は最後の人間様だ。ロボ公には真似できない”間違い”をするのが俺の仕事だ。
開演を告げるボーカロイドのアナウンスが流れた。俺はロボ公どもに混じってステージに出た。
今日のプログラムは「フィガロの結婚」からだ。楽譜はピアニッシモで始まるが、かまうことはない。指揮ロイドが振り下ろす棒より一瞬早く、俺は渾身のフォルテッシモで弾き始めた。