PMF20周年アニバーサリーオーケストラを聴いてきた。
このオケは、PMF20年間の卒業生たちで、世界のオケに”就職”した人たちで、今回の演奏会のために構成された特別編成オケである。
今日のために、それこそ世界中のオケから集まってきたのだ。
国際音楽祭で編成される一期一会オーケストラにありがちな独特なパワーとモチベーションで、地から沸き上がるような力のある素晴らしい演奏だった。
特に管楽器はダニエル・マツカワさん始め、20年間の有名人達で構成されたと思われ、技術的にも最高だった。
弦楽器も、完全に仕事抜きモード全開のフルパワー。まさに底鳴りくんであった。
「普段地元のオケでもそのテンションで弾いてたらすごいよ!」と思ったりもしたが(笑)、PMF20周年に相応しい熱い演奏を堪能させてもらった。
プログラムのメインはシューマンの交響曲第2番だった。
この曲は私も参加させてもらった第1回PMFでバーンスタインが指揮して演奏した曲だ。
客席で聴いていても本当に懐かしかった。
そして昨日は札響によるPMFウェルカムコンサートだった。
札響の楽員とPMFアカデミーの学生たちとの合同演奏会だった(R・シュトラウス/英雄の生涯)。
アカデミー生達も各国からオーディションで選ばれて集まってきているが、中には素晴らしく上手なコもいるが、大多数は上手めの音大生レベル。
でもこれは当然で、これでいいのである。
PMFはソリストを育てる音楽祭ではなくて、オーケストラ奏者を育てるということに目的を特化した音楽祭なのだから。そこがPMFの世界における大いなる存在意義なんだと思う。
彼らもこれからクソ度胸を磨いて、血の小便が出るほど過酷なプロオケのオーディションを勝ち抜いてほしい。
で、今年は札響とPMFの学生たちがプルトを組んで弾いた。
学生といえども相手はガイジン!(笑)。
なんつーか、すっげー余裕ありまくりの態度で、ネイティブな英語でこられると、純度100%のニッポン人としては簡単にひるんでしまう・・(苦笑
でも弾き始めると相手の正体が分かるから、「なんだ・・、ただの音大生じゃん・・。大人相手に余裕かましてんじゃねーぞ! ゴルァ!」と心の中で思うのである。(心の中でね)
西洋人の奏者と接するといつも思うけど、内心ビビってても彼らは意地でも「オ〜 イェ〜イ エンジョ〜イ」の態度を崩さない。子供でもそう。これはもう一種の芸と言ってもいいと思う。
あの雰囲気に飲まれない鈍感力を養わねば・・・。
そんなわけで、PMFの仕事はいつもの10倍くらい疲れるのであるが(英語もしゃべらないといけないしね)、練習場の芸術の森で収穫もあった。
例のアニバーサリーオケ。今回は2000年以降の修了生が中心で編成されたそうだが、私と同じ第1回目の修了生4人ほどいた。
彼らと20年ぶりの再開を果たすことができた。
一人は日本人でクリーブランド管の”美人”ヴァイオリニスト。
当時、期間中とても仲良くしていたので懐かしい話しに花が咲いた。今日の演奏会で彼女を探したら、なんとコンマスをやってた。驚いた。
第1回修了生でチェロの人もいるので「呼んでくるーー!」という彼女に、「あ、いい。いいから!!」と言うのもつかの間・・・。
だってさ、ガイジンでしょ〜〜〜。
だいたいこうなるのだ。
ガイジン氏 ハ〜〜イ!
ワタシ ハ〜〜イ!
ガイジン氏 ロング タイム ノー シー!
ワタシ ロング タイム ノー シー!
ガイジン氏 ・・・・
ワタシ ・・・・
ガイジン氏 ・・・・・・・・・・・・
ワタシ ・・・・・・・・・・・・
ガイジン氏 シー ユー
ワタシ シー ユー
さて、PMFと札響が不仲なんていう話しはメディアでも何度も取り上げられてきた。
つい数日前の道新にもそんな話しが出ていた。
私自身、修了生でありながら、PMFに対して否定的な考えをずっと持ちつづけていた。
それは、予算の問題だったり、PMF期間中はとにかくPMF最優先で札響は芸術の森の練習場まで追われてしまったり、もともとやっていた7月定期を廃止せざるを得なくなったり、何より悲しかったのがPMFの事務方の方がメディアで『札響の名で世界の学生を呼べますか?』みたいなことを公然と語っていたり(仮にそうだとしてもそれを言ったらお終い。今にして思えば本当にごくごく一部の方の発言だった思う。ほとんどの方は頭が下がるほど献身的)、など札響が「メンツを潰された」と感じるに足る状況があったと思う。
2001年くらいまでは、札響にとってPMFが来たことによるデメリットばかりでメリットは少なかった。
きっと札響側にも硬直的な態度とかいろいろ反省すべき点はあったのかもしれないが。
関係各位のご努力の賜物で、最近は合同演奏会を毎年やるくらい親密な関係になった。
私もこの機会に宗旨変えして、PMF肯定論者になろうかと思う(笑)。
実は宗旨変えはここ数年のPMFや札響を取り巻く札幌の音楽事情の変化や、自分の心の流れだったりしたが、今晩の演奏会も宗旨変えを裏づけてくれた。
シューマンも良かったが、終演後、ダニエルマツカワさんの指揮で有志10名ほどで、ジークフリート牧歌のサービス演奏がステージ上であった。
例のコンマスも1stヴァイオリンで出演していた。
演奏会が終わって、お客も帰りかけている中、おもむろに演奏は始まった。
会場は水を打ったように静まり返った。みな、それぞれの場所で演奏に聴きいっていた。
技術と心が調和した本当に美しいジークフリート牧歌だった。
西洋音楽が素晴らしくて、それを紡ぎだす演奏者に畏敬の念を感じて、そういう人間に自分もなりたくてこの道に進んで頑張っているわけだが、長年やっていると業界の表も裏も知りすぎてピュアな気持ちのままでいることは難しい。きっと世界各地のプロオケでやっているPMFアニバーサリーの彼らもそうだと思う。
しかしながら昨晩は「音楽の素晴らしさ」なんていう薄っぺらい表現ではとても収まりきらない気持ちを思い出させてくれるような演奏だった。
演奏している彼らは若い頃に訪れた札幌に再び来て、一期一会オケで弾いている。彼らの精神状態は容易に想像できる。奇跡的とまでは言わないが、そうした状況で生れた特別な演奏だったのだと思う。ちょっと羨ましくもあった。
そう。これでいいのかもしれない。
みんな公には書けない言えない事情とか思いとか矛盾とかいろいろあっても、そうやって進んでいくなかでいいものを作っていくしかないし、そういう姿でオッケーなのかもしれない。
「PMFと札響との関係」の未来については、やはりPMF側の音楽監督がたまには札響を振って欲しいかな・・。(しつこいようだけど)
以前、一度だけエッシェンバッハさんが札響を振ってくれたことがあったが(1994年/ベートーヴェン交響曲第7番ほか)、あの演奏会は本当に思い出深い演奏会になった。
PMFと札響の蜜月に向かって、夢を語っていい時期にそろそろ来ていると思った。
ふっ、今日は懐かしさに駆られてちょっとおセンチなノリになっちまったぜ・・・(照)。
それではみなさんごきげんよう。