2008年08月23日

恐怖のステレオおやじ 【9】

前回からの続きです。


さて、マンション管理組合の理事長になってから、ステレオおやじの姿をマンションの敷地内で頻繁に目にするようになりました。
洗車したり、見回りの様にぶらついたり、管理人さんと立ち話をしていることも多かったです。
ここの管理人さんはじつによく働く人で、毎日黙々と掃除や芝の手入れに精を出していました。性格も謙虚で優しい人で、うちの子供たちはすっかり管理人さんに懐いて、上の娘はバレンタインデーに手作りチョコを管理人さんにあげていたほどです。
「おじさん、もったいなくて食べられないな〜」と目を細めて笑っていた管理人さんの顔がとても印象的でした。

ある日、『挨拶の仕方が悪い』と言ってステレオおやじが管理人さんを怒鳴りつけた、という噂を耳にしました。
耳を疑いましたが事実の様です。
この頃になると、私もやっと分譲時から住んでいる住人の方々ともある程度交流が出来ていたので、立ち話などでいろいろな情報が入るようになっていました。
怒鳴りつけ事件の数ヶ月後に、ステレオおやじがマンションの管理を委託している会社に、「あの管理人を辞めさせろ」と電話で怒鳴り込んだ話しも耳にしました。
『ステレオおやじの奥さんに口答えしたから』という理由だったようです。
あの恐ろしく無愛想で挨拶も返さない奥さんに、温厚な管理人さんが一体どういう口答えをしたというのでしょうか。言いがかりもいいところです。

結局、管理会社の担当者が分譲時から住んでいて管理組合の役員もやっている方たちに仲裁を頼んだそうで、管理人さんは職を失わずに済みました。

その話しを聞いて、ステレオおやじと路上で立ち話する管理人さんの顔が緊張で引きつっているわけが分かりました。


マンションの敷地内ではこの頃のステレオおやじは全く有頂天です。
ステレオおやじの部屋はマンションの中央の棟の最上階(三階)です。
ステレオおやじは多趣味な人で、ステレオの他にも車、自転車、そしてガーデニングをやっています。
車は依然お話しした高級外車を所有しており、かなり恥ずかしいナンバーを付けて走っています。(数字はここでは書きませんが、付けるのに勇気のいる数字です)
自転車も海外ブランドの高級自転車を所有しており、車同様いつもピカピカに磨いています。
そしてガーデニング。ベランダ一杯に観葉植物等を栽培しており、週に1〜2度ホースで大量に水やりします。
当然水が階下のベランダにも垂れてきて干してある布団を濡らされた事も何度かありました。
ステレオおやじとのマトモなコミュニケーションは諦めていたので苦情は言いませんでしたが、水やりするなら階下のベランダを確認するくらいできないものかと腹が立ちました。

毎日きっちりと定時に帰宅し趣味に没頭するのはいいのですが、あまり協調性がなさすぎると、「あれは出世しないタイプだな・・・」と周囲から陰口を叩かれます。
そんな住人たちの失笑もこの頃は時々耳にしました。

そしてステレオの音は大音量で止むことはありません。
「俺がマンションの主だ!」と言い出しかねないステレオおやじはまるで、マンションの中央、最上階に住む「王」の様でした。ただし裸の王様的ではありましたが・・。


前回、ステレオおやじに「レッスン禁止」と言われましたが、私は相変わらず週に数回のレッスンは続けていました。
そんなある日、H大の学生M田君がレッスンに来た折、ちょうどM田君が私の部屋にチェロを抱えて入ろうという時に、ステレオおやじが前を通りかかりました。
会社帰りのスーツ姿のステレオおやじは私に向かって
「ちょっとちょっと〜、レッスン禁止って言ったでしょ〜」と例の顎を突き出す言い方で言ってきました。
私は最悪のタイミングに一瞬ひるみましたが、
「管理規約読みましたけど、レッスン禁止とは書いてありませんよね?、教室禁止とは書いてますけど」
「おいおい、レッスンしてるなら教室だろ」
「週に1〜2度レッスンする程度では教室とは呼ばないんじゃないですか? 住居だと思うんですけど」
するとステレオおやじは目を吊り上げて私を睨みつけ
「ホントに1〜2度だろうな! 」と大声で怒鳴りました。

ステレオおやじの大声に私もM田君もびっくりしました。
マンションの廊下で、しかも生徒もいる前で大声で怒鳴りつけられてしまいました。
まさか私までも怒鳴りつけの被害者になるとは思いませんでした。
ステレオおやじとの正常な人間関係はこの瞬間に完全に破綻したと言ってもいいと思います。
言葉に詰った、というか絶句した私をあとにステレオおやじは私を睨みつけた目線を外し、階段を登っていきました。

その日のレッスンは頭に血が登ってまともに出来なかった気がします。
しかし、これはまだほんの序の口でした。

やがてマンションでレッスンをするのを諦めざるを得ない事態が起きるのです。

【つづく】

  

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2008年08月07日

恐怖のステレオおやじ 【8】

前回からのつづきです。


さて、上階のステレオ音は相変わらず階下の私の住む部屋に鳴り響いています。
夏は窓を開けているので、天井からベース音を中心に響いてくる直接音と、駐車場を挟んで向いにある棟に跳ね返って聞えてくる反響音にダブルで悩まされました。

何故かドとソの音が強烈に聞えるベース音は
ド〜〜〜ド〜〜ソ〜〜〜〜〜ドドソ〜〜・・・ド〜ソ〜〜〜〜〜
という感じで天井を震わせています。

一方、向かいの棟はマンションの駐車場を挟んで10メートルほど離れて建っていますが、ステレオおやじは窓を開け放してステレオを聞くので、ジャズの音が駐車場内を周ってしまって大変な騒音になっています。
ステレオおやじが引っ越してきて最初にこの音は聞いた時は、すぐ隣の公園でどこかの保育園の運動会が始まったのかと思ったくらいです。

三階のN島さんの奥さんは口論の時に「ステレオうるさい」と言っていましたが、よく他の部屋の皆さんは苦情を言わずに我慢していられるな・・、と不思議でした。いや、苦情は言っていたのかもしれませんが。

実のところ、妻ともよく言い合いになったのですが、私にとって上階のステレオ音は我慢と忍耐の限界を越えていましたが、妻は「たしかにうるさいが、数年なら何とか我慢できる」と、私に比べるといささか寛容でした。
私は上階のステレオの音が聞えてくると、ステレオおやじの憎々しげに斜めに歪んだ口元を思い出さずにはいられませんでした。
実際の音もさる事ながら、「なぜ窓を閉めないんだ?」とか、「ステレオが趣味ならなぜ防音に配慮しないんだ?」と相手の身勝手を責める気持ちが、さらに音に対する許容量を低下させていることは否定できませんでした。

生活音かそれとも騒音か、という問題は非常に難しいと思いました。


ステレオおやじにはその後、廊下で会った時などに機会を見て”軽いクレーム”という感じで2度か3度苦情を言いました。
あまり頻繁だと反感を煽るだけなのでとても気を使ってタイミングを測って言ったつもりなのですがまったく逆効果で、ステレオおやじとの関係は悪化する一方でした。

ある時、会社帰りのステレオおやじと廊下で出くわし、こんな会話がありました。
挨拶につづけて、わたしは思い出した風を装ってなだめるように言いました。
「あ、それから○○さん(ステレオおやじの名)。気を使っていただいてはいる様なのですが、最近ステレオの音量がまた大きくなったように思うんですが・・、もう少し配慮していただけると・・」
紺色のスーツ姿のステレオおやじは私が言い終わる前に低い声で話し始めました。顎を突き出すいつもの話し方です。
ステレオ「あなたの所の楽器の音も聞えてますからね。それからあなたレッスンやってるでしょ。ここのマンションはレッスン禁止だからな。」
いきなり思いがけない反撃に会い、私は戸惑いました。ステレオおやじの頭頂部にわずかに残った白髪が頼りなげにフワフワと風に揺れています。
「レッスンといってもたまにですよ。せいぜい週に2〜3回ですよ。」
「週に2〜3回でも禁止は禁止でしょ。練習の音なら少しは大目に見るけど、レッスンは別だから」
「防音室の中でやってるんですよ。そんなに迷惑かけてるとは思えませんけど・・、そこまでおしゃるならステレオの音も気をつけてください。せめて窓を閉めるとかしてもらえませんか?」
「音はお互い様でしょ。神経質なこと言われてもね。あなたのレッスンの音も1階の○○さん(ご隠居夫婦)の家にも聞えて迷惑してるそうだからな。」
「○○さん(ご隠居夫婦)が迷惑だって仰しゃったんですか?、そんなはずはないんですけど」
「まあ、とにかく、レッスンは困るから。不特定多数の人がマンションに立ち入ることにもなるから」
ステレオおやじは斜めに引きつった薄い唇を尖らせて一気に話し終え、私の返事を待たずに去っていきました。


この人の攻撃的な性格は一体何なんでしょう、自分に対する批判は倍にして返えさないと気が済まないようです。
その方法の巧みさと執念には才能さえ感じました。

結局、苦情を言ったつもりがレッスンが禁止だと言われてしまいました。
それと、1階のご隠居夫婦が「迷惑だ」と言うはずはなく、多分老夫婦から「(楽器の音が)少しは聞えますけど」という言葉を引きだして、それを誇張したのだと思います。いかにもステレオおやじがやりそうな手法です。

それにしても、週に多くて数回程度、防音室内でのレッスンを問題にされるとは思いませんでした。「音楽教室としての使用は禁止」という管理規約は確かにありますが、それは「○○ピアノ教室」などと看板も出して、ひっきりになしに生徒が訪れる”音楽教室”としての使用は禁止なのであって、自宅として使用している部屋に時おり生徒が訪れてするレッスンを禁止したものではない、という私の理解だったのですが、ステレオおやじには通用しないようです。

レッスンに関してはまだ後日談があるので後に譲ることにします。


それから、ステレオおやじとの関係は冷えこみ、挨拶しても無視されるようになったので、こちらも挨拶しなくなりました。
妻と娘は挨拶していましたが、とても横柄に挨拶を返してくるので感じが悪いです。


その次の年、あろうことか管理組合の総会で、ステレオおやじが組合の理事長に就任しました。
その年の総会は私は仕事で出席できなかったので、後日配られた議事録で知りました。
ステレオおやじはマンションの運営にやる気満々だったので、なかなかなり手のいない理事長に就任するのは当然の成り行きだったのかもしれません。


理事長に就任してからのステレオおやじの振る舞いはさらに加速していきます。

そしてどうやら、「被害」にあっているのは私だけではなかったようで、だんだんとステレオおやじの異常な行動が浮かび上がってきました。



【つづく】

  
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2008年08月05日

恐怖のステレオおやじ 【7】

前回からのつづきです。


ステレオおやじと口論している女性は、ステレオおやじの向かいに住むN島さんの奥さんでした。

このマンションの私が住む棟には3系統の階段があり、それぞれの階段の1フロアーに二世帯づつ部屋があります。
なので、ステレオおやじが住む3階にもステレオおやじ夫婦の他にもう一世帯の部屋があるのです。

ここで、私が使っている階段を共有しているメンバーをご紹介します。

1階
・ご隠居夫婦。人の良い老夫婦が住んでいます。随分と親しくさせてもらいました。子供好きな夫婦で私の子供たち(この後に一人増える)もよく遊びに行かせてもらったり、おすそ分けをしたりされたりしていました。
1階はマンションの構造の関係で1世帯のみです。

2階
・私の家族。
・社長さん家族・・50代の小さな会社の社長さん家族。ご主人は大柄でマンションの管理組合の理事長も長年している頼りになる人でした。すごい美人の奥さんと大きな子供が二人。長男は独立し、長女は同居していました。ここの家族とも親しくさせてもらいました。

3階
・ステレオおやじ夫婦
・N島さん家族・・私と同世代の医者のご主人と奥さん。小学生〜幼稚園の元気な子供が3人。賃貸で住んでいました。


さて、耳を澄まさなくても聞えてくる口論の中身はこんな感じです。

ステレオ「だから、犬はマンションの管理規約で禁止されてるんだから。飼っちゃだめでしょ」
奥さん「ですから、不動産屋さんにも確認して飼ってるんですよ。それに小さな室内犬でしょ。迷惑かけてますか?」
ステレオ「規則は規則ですからね。鳴き声だって聞こえるわけだし、他から見たらあのマンションは犬を飼ってもいい。という風になるんですよ。あなたの家が規則を守らないとマンション中が迷惑するんですよ。」
奥さん「迷惑というなら、お宅のステレオの方が迷惑ですよ。それにベランダで煙草吸うの止めてください。うちに煙が入ってきて迷惑ですよ!」
ステレオ「それは関係ないでしょ。とにかく犬は飼っちゃいけない規則だから」

私は相変わらず毎日天井から聞えてくるジャズの騒音に悩まされていましたし、N島さん一家は同世代で似た家族環境だったので、N島さんの奥さんに内心エールを送りながら口論に聞き入っていました。

確かにマンションの管理規約に犬や猫などペットの飼育を禁じた項目はあります。
どのマンションにもペット禁止の決まりはあると思います。
ですが程度問題で、分譲マンションでは小さな室内犬程度は目をつむるというケースが多いようです。

後で聞いた話しですが、ステレオおやじは東京から数年ぶりに戻ってくるなり、賃貸で住んでいたN島さんに犬の件で毎日の様に執拗に苦情を言ったりドアに張り紙をしたりしていたそうです。
この日はたまりかねた奥さんがついにキレた、ということだったようです。
結局その2〜3ヶ月後、N島さん一家はステレオおやじが原因で引っ越していってしまいました。


この事件があった2ヶ月ほど前、ステレオおやじが東京から戻ってきて初めての管理組合の総会があった時のことです。
管理組合の総会はそれまでだいたい5〜6人の人たちが出席して、あとは委任状で成立していました。
出席しているのは男性ばかりで、主に平成元年の分譲時から住んでいる世帯のお父さんたちです。
マンションの修繕箇所の相談と、あとは世間話が中心の平和な会だったのですが、ステレオおやじの復活(私から見ると出現)で雰囲気が変わりました。

ステレオおやじも分譲時からの区分所有者で、久しぶりに東京から戻ってきてやる気満々でした。修繕箇所や大規模な清掃箇所を次々と挙げていき、修繕積立て費を一気に倍額にする話しを持ち出しました。
「それはちょっと・・・」という場の雰囲気は一切無視という感じでした。
「マンションというのは管理を買っているわけだから。分譲時は三千万、四千万したこのマンションも今は見る影もない」
と言って一歩も譲りません。

確かに、分譲時に入居した世帯の人たちと中古で買って入居した世帯にギャップというか、多少の溝はありました。
バブルだった分譲時は3千数百万〜4千万円したマンションでしたが、私が入居した平成10年には1400万円まで下がっていました。
分譲時に購入した人は10年経った時点でも、ローンの残高が下手をすると当時の実売価格を上まわっているという状況だったと思います。
「おもしろくない」というのが正直なところだったのかもしれません。

しかし、「今は見る影もない」とまで言われると途中入居の私はおもしろくありません。
これからしばらく後の総会でステレオおやじが言った
「分譲時に購入した人は選ばれて入ったわけだけど、中古で購入してくる人はどんな人が入ってくるか分からないからね。マンションのルールは分譲時に入った人間で決めるべきでしょ」
というヘンテコな理屈には唖然としました。
ステレオおやじの途中入居者に対する偏見と差別は露骨で、口論していたN島さんの家の話題になったときも、誰かが「あそこのご主人はお医者さんだっけ?」という言葉にたいして、「ふんっ、勤務医だろ」と吐き捨てる様に言ったのが印象的でした。
「警察官が見回りにきた」と聞けば、「ふんっ、外事警官だろ」と言ってみたり、よく分かりません。
何でもいいからとにかく見下さないと気が済まないようです。


そしてこの後、マンションの管理組合は思わぬ方向に向かっていったのです。


【つづく】  
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2008年08月02日

恐怖のステレオおやじ 【6】

前回からのつづきです。

ステレオおやじは私を見つけると、愛車の高級外車を拭く手を止めて話しかけてきました。
「やあ、こんにちは。今度のポップスコンサートは出るんですか?」

一瞬何を言ってくるのかと身構えた私は拍子抜けしました。
「え? あ、はあ。出ますよ。札響の演奏会は全部出ますから」

この時のステレオおやじからは先日の様な憎々しげな表情は感じとれませんでした。いたって平和です。まあ、多少偉そうではありますが。
ステレオおやじは、「ああ、そう、出るんですか」と小声で言った後に続けます。
「キタラに聴きに行きますよ。」

私は反射的に”対お客さん向け”の善良な笑顔で、
「あ、そうですか。いらっしゃるんですか。ありがとうございます」とかなんとか応対して、ステレオおやじの斜め向かいに停めてある自分の車に乗り込みました。


この態度の変化はどう考えればよいのでしょうか。
こないだは言い過ぎた・・と、彼なりに反省して私との関係改善をはかろうとしているのでしょうか・・。
それならそれでとてもありがたいことです。
この頃の私は、札響の経営破綻と経営改革の時期でとても忙しく、また前年に父が亡くなってその後始末で私的にも忙殺されていました。
そのうえマンションの住人とトラブルを起していられない・・という状況でした。

ちなみにステレオおやじが言った”ポップスコンサート”というのはこの経営改革の一環で自主公演として始まった『札響ポップスコンサート』のことです。


その日の夕方マンション帰るとさらに意外な出来事が待っていました。
ドアチャイムがなり、出てみるとステレオおやじが立っていました。
「ああ、さっき東急ハンズでスピーカーの下に敷く吸音材を買ってきてね、置いてみたから、聴いてもらえますか」
ステレオおやじに言われるままに部屋に戻って、上階から聞える音に耳を澄ましました。(もっとも、耳を澄ますほど小さな音ではありませんが)

ひょっとして、実はそんなに悪い人じゃないのかもしれません。
こないだはたまたまタイミングが悪かっただけかも・・。
音楽好きであることには違いないんだし、根はけっこういい人なのかもしれません。

私も生活の場であるマンションにまで争いを抱え込みたくはないので、そうだとしたらとても助かります。そう思いたいです。


ステレオ音は確かに少し小さくなっていました。ベース音も多少弱まった気がします。しかし元々の音量がデカすぎることに変化はありません。

ステレオおやじが降りてきました。
「どうですか?」
「ええ、たしかに少し静かになった気がします。でも音量自体もう少し絞ってもらえたら・・」
私はイヤな感じにならないように、作り笑顔で言ってみました。
ステレオおやじも作り笑顔で答えてきます。が、さっきよりも多少口元が歪んでいます。
「まあ、しばらくこれで様子見てもらえませんか?。本当はもっと大きな音で聴きたいわけだから」

なんだかよく分からないまとめられ方をしてしまいました。
しかし、階下を少しは気にしているようですし、そのうち他の住人からも苦情が出るかもしれません。


やがて上階からいつものジャズの音が聞えてきました。この日の最初はアップテンポのトリオです。いつも不思議に思うのですが、ベースの"ド"と"ソ"の音だけがやたらと大きく聞えます。どの曲でもそうです。何故なんでしょう・・・。
そんなことを考えながら私は溜め息とともに天井を見上げました。たしかに少し音量は下がった気がします。
ステレオおやじの言うようにしばらく様子をみるしかなさそうです。


そして数週間が経ちました。
ステレオおやじとはマンションの玄関や、たまに近所のスーパーで顔を合わせます。妻や子供が一緒の時もありますし、私一人の時もあります。
「おはようございます」と挨拶すると、「おはよう!」とやたら偉そうに返してきます。
向こうは奥さんが一緒の時もありますが、奥さんはこちらが挨拶しても絶対に返事をしません。恐ろしく無愛想な人でした。

ステレオの音はやはりジワジワと音量を上げて、結局元に戻ってしまいました。
吸音材を入れてもその分音量を上げたのでは意味がありません・・。

そしてある日、仕事からもどるとステレオおやじが住む三階の廊下から怒鳴り合っている声が聞えました。
ステレオおやじが誰か女性と口論しているようです。

私の耳に飛び込んできたその口論の内容は・・・


【つづく】

  
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2008年07月26日

恐怖のステレオおやじ 【5】

前回からのつづきです。


それから数日が過ぎました。
ステレオおやじとはそれから会っていません。

ジャズの音は相変わらず天井から響き渡ってきています。

マンションの間取りついて少し解説します。
私の部屋は3LDKです。上階のステレオおやじの部屋もまったく同じ間取りです。
玄関を入るとマンションにしては広めの踊り場があります。
その右手にユーティリテー、左手に約10畳のクローゼット付きの部屋。
このクローゼット付きの部屋は本来寝室として設定されているのでしょうが、私はここにカワイの防音室を入れて練習&レッスン部屋として使っていました。

踊り場の突き当たりは居間へのドアがあります。居間とキッチンは繋がっています。
居間の向こうには居間と接して6畳の和室と8畳の洋室があります。
居間と和室には割りと広めのベランダが付いて行ます。

ジャズの音は和室の真上から聞えてきます。
スピーカーは和室の居間寄りの部分にあるらしく、居間にもかなり響いてきます。
隣の洋室では60%くらいに軽減されます。
練習部屋と玄関の踊り場の方はさすがに静かですが、ベース音だけは聞えてきます。


ステレオおやじは毎日夕方の6時に帰宅します。
土曜日と日曜日はほぼ終日家にいます。出掛けてもすぐに帰ってきます。
夏の間だけゴルフに行くらしく4〜5回週末に留守のことがあります。
この生活サイクルに全く変化はありません。
平日、帰りが遅くなることも一切ありません。

ステレオおやじはBの付く高級外車に乗っています。
私の部屋と上階のステレオおやじの部屋の真下にその車の駐車スペースがあるので、窓から見下ろして車があるとステレオおやじが家にいるかが分かります。
週末は毎週洗車しているので、車はいつもピカピカに磨き上げられています。

そして在宅中はほとんど全ての時間ステレオからジャズの音が流れます。
朝は9時少し前から、夜は1時頃まで続きます。
夜11時から少し音量が下がりますが、あくまで少しです。
歌詞が聞き取れなくなるほどではありません。

上階のステレオ音のストレスはかなりのものでしたが、こちらが出す楽器の音も聞えると言われてしまったので、そちらも気をつけざるを得ません。
苦情を言ってステレオ音を下げてもらうよう交渉する手前、自分の出す音にも最大限配慮して反論されないようにしなければならないだろうと思いました。

なので、夜の10時以降は楽器に消音器を付けて練習するようにしました。
防音室で弾く楽器の音はマンションの廊下に一切漏れていないので、馬鹿馬鹿しいとは思いつつも仕方ありません。


前回、「どれだけ聞えてるか聞きに来てください」と言いはしましたが、正直言ってステレオおやじを家に上げるのは億劫です。
それに実際聞いて「たしかにうるさいですね・・、気をつけます」と彼が言うとも思えない気がしてきました。
しかし、毎日上階から響いてくるジャズの音にイラつきは募ります。
イラついて妻に当ったりして喧嘩になることもありました。

当初、和室を寝室に使っていたのですが、当時赤ん坊だった子供がアトピーで寝つきが悪く、ただでさえ寝かしつけるのに苦労していました。子供は8時くらいに寝かせるのですが、その時間帯はステレオ音がピークを迎える時間でした。
とてもたまらず、寝室を隣の洋室に替えて、その和室を私の書斎にしました。
寝るには少しマシになりましたが、原稿を書いたりする真上でジャズの音が鳴り響くようになり、これはこれで相当ストレスでした。

そんなおり、ある週末の日中、駐車スペースで洗車しているステレオおやじとばったりとハチ合わせになりました。
ビクっと驚いた私にステレオおやじは意外な言葉を話しかけてきました。

【つづく】  
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2008年07月24日

恐怖のステレオおやじ 【4】

前回からのつづきです。

「下の階の荒木です」
ステレオ「・・はい」

ここで「ちょっとお待ちください」程度のセリフがあってからドアが開くのが普通だと思うのですが、その気配はありません。仕方なく私はインターフォンに向かって話し始めました。

「えーとですね、ステレオの音を少し下げていただけないかお願いに来たんですが」
すると、ステレオおやじはいかにも面倒臭そうに溜め息混じりに答えます。
ステレオ「そんなに聞えるとは思えないんだけどな」
「え? あ、いや。相当聞えるんですけど、」
そこまで言うとインターフォンがいきなりブツッと切れました。
私が驚いていると、やがてドアがゆっくり開きました。
半分くらい開いたドアからステレオおやじが顔を覗かせました。不愉快そうな口元は斜めに歪んでいます。

ステレオ「あまり神経質なこと言われてもね・・」
ステレオおやじはむっとした口調でいきなり言いました。

この人は割りと低い声でゆっくる喋るのが特徴です。これは私の主観ですが、見下されている印象を受け、あまり感じの良い人ではありません。
この”人を見下す”という印象はその後もずっと変わることはありませんでした。

わたし「・・・・いや、あのですね、神経質ということはないと思うんですけど」
ステレオ「神経質でしょ。そもそも、こないだ金槌がどうとか言われて、こっちは憮然としてるんだけどさ」
”憮然としている”と言われ、私はまったく予想外の展開に軽いパニックになりました。初っぱなからここまで敵意のある対応をされるとは思いませんでした。
次の言葉が思い浮かびません。

やっとの思いで頭を整理して言いました。
わたし「いや、夜遅くに金槌はどうかと思うんですけどね。前にも言いましたけど赤ん坊もいるので、少し気をつけていただきたいと思・・・・」
ステレオおやじは私の言葉を遮り続けます。
ステレオ「金槌じゃないんだけどさ、まあいいや。こっちは引越しやってるわけだから。夜に片づけやらないでいつやるんだよ?」

こうなると正直言って絶句する以外ありませんでした。私にはステレオおやじの言い分は一方的なものに聞えました。
苦情を言うつもりが逆に苦情を言ったことに対して苦情を言われました。丁重にお願いする形をとれば・・、というのはこの人には全く通じない甘い考えだったことがよく分かりました。
言葉を失っている私にステレオおやじは畳み掛けるように言ってきました。

ステレオ「あなたのところの楽器の音もこっちに聴けえてきてるんだよな」
今度はこちらの楽器に話しを振られました。

わたし「え? いや、そんなはずはないと思うんですけど、防音室の中で弾いてますし」
ステレオ「いや。聞えてますよ。まあ、あなたはそれが生業みたいだから、大目に見ようとは思ってるんだけど・・。お互い趣味なわけだから、尊重しあっていきませんか?」

こっちは趣味じゃないんだけど・・・。まあそれはいいとして。自分の騒音は棚に上げてこっちを大目にみてやるだと?、なんて勝手なこと言う人なんだ・・。と私も頭に少し血が登り始めました。
そもそも、歌詞や楽音の細部まではっきり聴き取れる程の大音量のステレオ音と、こちらの防音室から僅かに漏れた音を一緒にされてはたまりません。
こんなところで話しをまとめられたら困るので、気を取り直して反撃を試みようとしたところに階下から妻が登ってきました。
玄関で会話の一部始終を聞いていたはずです。

「はじめまして」
ステレオおやじは妻をちらりと見て軽く頷きました。
この人の目下の人間に対する挨拶は本当に失礼で、その後も腹の立つことが多かったです。「私はあなたの部下じゃありませんよ」と言ってやりたくなることもしばしばでした。
聞くところによると、ステレオおやじは大手の保険会社か何かに務めているそうなのですが、よほど横柄な態度で臨まないといけない部署にでも長年いたりしたのでしょうか・・。一体どういう人生を歩んで来たらこういう人格になるの? とその後もよく考えました。

わたし「いや、尊重しあうのはもちろんなんですけど、お宅のステレオの音はあまりにも大きいと思うんですけど」
やっとの思いで反撃に出た私の背後で妻が続けます。
「あの〜、ステレオの音がどのくらい聞えてるか、一度聞きにいらしてもらえませんか?」
ステレオ「いいですよ。行きますよ。まあ、今は食事中だから、今度にしてもらうけど」
わたし「はあ、うちも今は子供が寝てますし・・、では今度」


一時はどうやって収拾をつけようか途方に暮れた会話がやっと終わり、私と妻は階下の部屋に戻りました。

しばらくすると、またジャズが頭上から響き渡ってきました。
今日は女性ボーカルのバラード調の曲です。ベース音は相変わらず天井全体を震わせて響いてきます。
苦情を言われた直後くらい少し音量を控えればいいのに・・、と腹が立ちました。

今回は驚きとともにとても不愉快な思いをしましたが、これは今後起る出来事のほんの始まりに過ぎませんでした。


【つづく】
  
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2008年07月05日

恐怖のステレオおやじ 【3】

『恐怖のステレオおやじ』の連載が始まってから、知人や職場の友人たちから頻繁に「続きはまだ?」と訊かれます。こんなに反響が大きいのは始めてです。やはりマンションの騒音問題に悩んでいる人は多いのでしょうか・・・。
さて、前回の続きです。


ドアチャイムを鳴らすとすぐに玄関のドアが開きました。
そこにいたのは50代半ばの男性でした。頭頂部が禿ていて残った髪の毛も白髪だったので、最初は60代に見えましたが、よく見ると血色の良い顔をしています。
丸顔で中肉中背です。チノパンに青っぽいシャツ、それに茶色とも赤ともつかない色のベストを着ていました。
ドアがすぐに開いたのは、玄関で古い雑誌などを括る作業をしていたからのようでした。

男性は私の顔を見上げて無表情に短く言いました。
男性「はい?」
部屋の間取りは階下の私が住む部屋と全く同じです。高級そうな家具が所狭しを並んでいました。物がとにかく多そうです。なるほど、引越の片づけに時間がかかるわけだ。奥に人の気配があったのは奥さんでしょう。

私は部屋を覗きこむように話し出しました。
「あの、下の階の住人なんですが、荒木といいます。よろしくお願いします」
男性「あ、はい。どうも・・」
意外と低い声で愛想もなく答えてきます。いく分気勢を削がれましたが気を取り直して本題に入ります。
「実は、ステレオの音を少し下げていただけないかお願いにあがったのですが・・・」
男性「ステレオ?、・・・そんなに聞えますか?」
「ええ、下の部屋にかなり響いてます。それと金槌の音も・・・。赤ん坊もいるもので・・・」
男性「そうですか。じゃあ気をつけてみますよ」
「すいません。よろしくお願いします」

男性、つまりステレオおやじはそう言うと、手元の雑誌の束に再び目を落としました。作業を続ける様子です。
失礼と言い切るには決め手に欠けますが、感じの良い対応ではありませんでした。
しかし、一応「気をつける」という言葉を貰ったので、私は「では」とか曖昧な挨拶をして下の階に戻りました。


部屋に戻り、「どうだった?」という妻の問いかけに、「ん〜、普通の人だと思うんだけどね。まあ、一応気をつけるって言ってくれたから、静かになると思うよ」と煮えきらない返事をし、その日は休みました。

次の日、いつものように夕方6時頃からジャズのレコードが聞えてきました。
昨日までとは若干音量が下がった気がしますが、やはりまだかなりうるさいです。歌の歌詞や細かい楽器の動きまではっきりと聞きとれる音量であることには変わりありません。
しかしまあ、一応気をつけてくれているみたいだし。
それに昨日までの大音量に比べればいく分マシ・・。(と自分に言い聞かせます)

マシとは言っても根本的な解決は望めそうもないので、私はステレオの音をなるべく気にしないように生活することにしました。
音といえばこちらだって防音室の中とはいえチェロを練習したりレッスンをしたりしています。
こちらから漏れている音だってゼロとは言い切れない弱みがあります。

しかし、それから上階から聞えるステレオの音は、毎日ジワジワと少しづつ音量を上げ、10日ほどですっかり元の大きさに戻ってしまいました。
引越のドタバタ音はさすがにこの頃になると治まったのですが、頭上から響いてくるジャズの音は私の我慢の範囲を越えていました。

私たちが寝室に使っている部屋の真上にスピーカーがあるらしく、ジャスの音はその部屋で一番大きく聞えます。
特にベースの音は耐えがたい大音量で響き渡ってきます。
騒音そのものに悩むこともさることながら、「一体どうやってこんな大きな音を響かせているんだ?」と上階の部屋の様子を想像してイライラが掻き立てられます。
「スピーカーを床に直接置いているんじゃないだろうな?」とか「アンプの低音を最高に上げてるんじゃないだろうな?、それじゃ中学生の聴き方だろ!」とか思ってみたりして、「ズ〜ン!ズ〜ン!」と始まると苦々しく天井を見上げる日々が始まりました。

ジャズの音は平日は夕方6時頃から夜の12時か1時ころまで。土日は朝の9時頃から、やはり夜の12時か1時頃まで、ほとんど毎日決まった時間から断続的に続きます。
前回苦情を言いに行った日から2週間が経ちました。
こうやって悶々と思い悩むより、直接上階の住人にきちんと迷惑している旨告げて、自粛してもらうべきだろ、と思直しい、再び苦情を申し出る事に意を決しました。きちんと説明すれば分かってもらえるはず・・。

今回もいろいろと言葉を準備しました。
私も音楽家の端くれなので、音響の知識は普通の人よりはあるつもりです。単に「うるさい」と苦情を言うのではなく、お互い趣味や職業を尊重して気持ちよく暮らせる妥協点を見いだしましょう、という態度で臨めばそれほど問題はこじれないはず・・。(分譲マンションでお互い区分所有者ですし)
こちらが防音室を入れているように、上階の住人がステレオが趣味なら防音に対するそれ相応の配慮が必要でしょう。そうした上での多少の騒音であれば我慢する準備もあります。と思ったわけです。

かくのごとき意を決して再び階段を登り上階に住むステレオおやじの部屋のチャイムを鳴らしました。ステレオおやじの車はさっき駐車場に戻ってきました。既に帰って来てるはずです。
しかし、今度はドアは開きませんでした。

やがて聞えたインターフォン越しのステレオおやじの対応は、私の想定を大きく越えたものでした・・。

【つづく】  
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2008年07月02日

恐怖のステレオおやじ 【2】

ある日、その平和な環境に異変が起きました。
3LDKの間取りにしてはやけに多い引っ越し荷物。それが引越屋のトラックから降ろされて真上の部屋に運びこまれていきます。
その日はたまたま仕事が休みで家にいました。引越は昼頃から夕方近くまで続いたでしょうか・・。
後で分かったことなのですが、この日越してきた上階の住人はマンション分譲時に上の部屋を購入して数年住んでから東京に転勤になり、この度札幌に戻ってきたということでした。
以前から時折上階の部屋に出入りがあったのですが、それは知人かなにかが時々部屋の空気を入れ替えに来ていたようでした。

このマンションは面白い構造で、坂に添って建てられているのですが、A棟、B棟・・という具合に多棟構造になっており、棟の間には駐車場と専用庭があります。それぞれの棟がさらに階段ごとに複数のブロックに別れています。
建物自体は三階建てで、ひとつの階段を6世帯ほどが使う事になります。エレベーターはありません。

さて、引越なので上の階からドタバタと大きな音が聞えます。
でも引越なのだから仕方ないです。夜になっても大きな物音は静まりません。
しかしまあ、家具を動かしたりいろいろあるでしょう。仕方ないです。
静かな環境ともお別れか・・、やれやれ。と思いながら物音に耐えること1週間後の日曜日のことです。

朝9時に上階から聞えるステレオの大きな音で目が覚めました。
この日のことははっきりと覚えています。
私は前夜に室内楽の演奏会と打ち上げがあり朝の9時はまだ寝ていました。
上階から聞えるのは女性ボーカルのジャズのレコードです。
歌詞まではっきりと聴き取れるほど大きな音です。ベースの音がズンズンと響き渡ってきます。
襖一枚隔てた隣の居間から聞えてくるTVの音より、天井から聞えるジャズの音の方がはるかにデカいです。

あまりの大音量に耳を疑いました。
何かの間違い?? 例えばヘッドフォンを付けているのにアンプのスピーカー切り替えがオンになっているとか・・。
昼頃になってやっとステレオの音が止みました。そしていつものドタバタ音がはじまりました。

次の日の夕方6時頃。また大音量のジャズのレコードが上階から響き渡ってきました。
ひょっとして、これからこの騒音が毎日続くの?、と愕然としました。
いやいやしかし、上階の住人はこれ程ステレオの音が階下に聞えているとは知らないに違いない。しばらく様子を見ることにしよう・・。と自分に言い聞かせます。
女性ボーカルやピアノトリオやデキシー調のジャズのレコードが次々と聞えてきます。
相変わらずベース音とバスドラムの低音は天井全体を揺るがしてズンズンと大音量で響いてきます。
ジャズが止むとまたドタバタと家具を動かしているような音が聞えてきます。
それもかなり大きな音が深夜の1時頃まで続きます。

この頃は娘がまだ赤ん坊で、アトピーが酷くてなかなか寝てくれず、寝かしつけるのに苦労していたこともあり、騒音にはある程度過敏になっていたとはいえ、上階の物音はかなりのものでした。

引越があった日から10日目くらいに、管理人さんにそれとなく、「どういう方なんですか?」と訊いてみました。
管理人さんの話しによると、普通の企業に務める50代の夫婦だそうです。
分譲時からの区分所有者というのもこの時知りました。
私はてっきり20代の音楽好きの若者が越してきたのかと思っていたのでとても意外でした。
それに、6世帯しかいない棟の真下の部屋なのだから一言挨拶に来てくれたっていいだろ、とも思いました。

そして2週間が経ちました。
2〜3日前からドタバタに混じって金槌で釘を打つ音が聞えていたのですが、夜の10時すぎになっても釘を打つ音が止みません。
金槌の音でせっかく寝た子供も起きてしまいました。
たまりかねて少し静かにしてもらえないか、意を決して苦情を言いに行くことにしました。
丁重にお願いする形を取ればトラブルになることもあるまい・・と思い、いろいろと言葉を準備して臨みました。

そして上階に行き、少し緊張しながらチャイムを鳴らしました。


【つづく】
  
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2008年06月18日

恐怖のステレオおやじ 【1】

【プロローグ】からのつづき・・・

10年ほど前、子供も生れるので以前の街中のマンションから静かな環境の中古マンションに引っ越したわけです。
このマンションには以前友人が住んでいたことがあり、周辺の環境や近隣の部屋の音が静かな事は知っていました。

しかしながらマンションを購入するにあたって念の為に、空き室だった部屋に1日中籠り、近隣の生活音などに耳をそばだて様子を数回に渡り調査しました。
実際に、近隣の生活音はほとんど聞えませんでした。
また調べた結果、このマンションの壁の厚さは18cmでした。分譲マンションの標準は15cmですから、厚めと言えると思います。施工も評判の良い大手工務店なので問題はないと思います。

んで、このマンションを購入し、レッスンや練習のために以前住んでいたマンションに入れていた防音室も移転したのです。
防音室はカワイ楽器の「ナサール」という商品で、仕組みはヤマハの「アビテックス」と同じで、マンションの部屋の中に躯体に傷を付けずにもう一つ部屋を組み立てて入れるというものです。
6畳の部屋に梁なんかを逃がして作るとだいたい100万〜150万円くらいでしょうか。安くはないです。
ただ防音性能はかなり高いです。
「ナサール」や「アビテックス」の標準タイプの防音性能はマイナス35dbくらい。マンションの躯体の防音性能と合わせると下記のかんじです。

私たち職業音楽家が出す弦楽器の音はだいたい80dbくらい。
80db-35db=45db

普通の会話が50〜60dbですから、マンションの躯体の防音効果を考慮すると近隣に迷惑を及ぼす可能性はほとんどない、と考えていいと思います。
ただし、チェロの場合は音域が低いうえにエンドピンを床に固定するので、防音室が標榜するマイナス35dbからは若干数値が下がる可能性も視野に入れる必要があると思います。
さらに、以前住んでいたマンションは幹線沿いで車の騒音などうるさかったのですが、移り住んだマンションは閑静な山沿いの住宅街にあり、深夜ともなると沼の底の様に静かです。
周囲の環境音が低いと同じ音源でも相対的に大きな音に聞え気になります。

なので、常識的な時間(これが難しいのですが)、夜の11時以降は練習を控えることにしました。

実際に移り住んでから弾いてみると、防音室の中の音は周囲には殆ど漏れていないようです。
これで安心。当然近隣の住人からの苦情もなく、それどころか近所付き合いは極めて良好です。

この快適な住環境が2年間続きました。
そしてある日異変が起きたのです・・・

【つづく】  
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2008年06月05日

恐怖 の”ステレオおやじ(仮称)” 〜プロローグ〜

プロローグ

以前住んでいたマンションの上階にとんでもないおやじが越してきた。

”ステレオおやじ(仮称)”である。

つねづね書きたかった話題である。
このおやじには長い間、本当に本当に悩まされた。

わたしがエッセイを連載している季刊ゴーシュ6月号で、始めてこのおやじとのエピソードを文章にした。
が、季刊ゴーシュは同人誌的な性格とはいえ、パブリックに出版されている雑誌である。そうそうわたし個人のうっ憤を書き連ねるわけにはいかない。
他の話題に絡めて軽〜〜く”ステレオおやじ(仮称)”を紹介した程度である。まあ、ジャブというか飲み屋のお通しである。

が、ここはわたし個人のブログである。うっ憤であろうと積年の恨みごとであろうと、表現の自由が許す範囲で書き連ねる分にはわたし個人の権利であり、仮に何か起きようとも責任はわたし一身に帰す。
ちなみに、わたしは今までの生涯において、4軒のマンションと呼べる集合住宅に移り住んだ経験がある。
なので、”以前住んだマンションの上階の住人”という表現だけでは”ステレオおやじ(仮称)”を特定することは不可能である。(念のため)


これから語る長い長い、”ステレオおやじ(仮称)”との攻防の物語フルコースを、集合住宅で近隣との騒音トラブルに悩む全ての人に捧げます・・・・・(合掌)
きっと約に立ちます。なので敢えて綴ります。社会貢献ってことでよろしく・・。


つづく  
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