2010年03月01日

恋のゆくえ

フィギュアスケート、男子も女子も最高でしたね〜。うっとりです。
真央ちゃんは白鳥湖のオデット、キム・ヨナはオディールにイメージがかぶります。
あえて言うなら"清純"と"妖艶"。どっちもいいな〜〜〜〜〜!(≧∇≦)ノ彡 バンバン!
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季刊「ゴーシュ」で連載していた”クラヲタへの道”の転載禁止期間が過ぎたので転載します。
この回が最終回です。
”クラヲタへの道”は4年間の連載でした。
ラスト・オーケストラ・サムライ』、『ラスト・オーケストラ・サムライpart2』につづく小説(?)第3弾です。
雑誌だからというのもあってか、読んだ人の感想とか反響というものがまったく分かっていないのですが、
自分的にはけっこう気に入っている作品です。
自画自賛ですが、よくぞ600字にそぎ落としたと思います(笑)。

演奏会って、よくお客さんと「目が合った」と思うことあるんですよね。
とくに拍手の時とかね。室内楽なんかでは目のやり場に困ることも多いです。
自分がお客で行ってる時は、演奏者のそういう心理がよく分かってるので、
なるべく出演者の目を見ないようにしてあげています(笑)。
でも「目が合った」なんて考えすぎで、じつはぜんぜん目なんて合ってなかった、っていうこともよくあります。
今回は、そんな舞台と客席の間のお話をロマンチック風味にしてみました。



”クラヲタへの道”
その16 最終回
恋のゆくえ


 毎月この日は残業を断り急ぎコンサートホールに向かう。
チューニングが終わり静まり返った会場は指揮者の登場を待つ。
演奏が始まると俺の視線は指揮者でもソリストでもない、
オーケストラの中のあの女性に釘づけになる。一口で言えば清楚
な美人だ。長い髪は毎回工夫を凝らしてセンス良く纏められてい
る。上品で育ちの良さそうな立ち振舞い。軽く頷いてから楽譜を
めくる仕草が何とも可愛らしい。プログラムの名前をたよりに
ネットで彼女のことを検索してみた。趣味はショッピング。好きな
食べ物はアップルパイ、か。
 
客席の彼の存在に気づいたのは半年くらい前かしら。同僚のコが
「あの席にとてもステキな人がいるよ」って。いつもひとりで来る
あの人。まん中の通路の後ろから4列めが彼の指定席。
最初は、ふーんって思っただけ。でも気のせいかもしれないけど
ずっとこっちを見ている気がするの。いつも赤いネクタイなのね。
赤が好きなの?、どんな仕事をしてるのかしら。肩幅が広くて、
仕立ての良さそうなスーツがよく似合ってて。確かにちょっと
目立ってるわね。

 
思い余って彼女と同じ楽器を通販で買った。俺が弾いてもまったく
楽器の音がしないな。楽譜をめくる彼女の仕草を真似してみた。
なるほど、こうか・・。
 
今日もひとりなのね。この曲はお休みが多いからあなたのこと
たくさん観察できるわ。ふふ、自分が見られてるとは思ってない
でしょ。あ、また顎を撫でてる・・。癖なのね。髭が気になるの?。

 
 最近は演奏会を聴きに来ているのかキミを見に来ているのか分から
ないよ。ネットで私服姿の写真も見つけたよ。本当にセンスがいいんだね。
 
 赤いシュシュの髪留めをして舞台に出るのは今日で3回め。どお?
あなたのネクタイとお揃いでしょ?。でも気づいてくれるわけないわよね。

 
 赤い髪留め、黒い衣裳に映えてよく似合っているよ。ん?いま俺を
見た気がする。どうも最近よくこっちを見てる気がするな。勘違いでも
嬉しいよ。
 
 拍手の時、指揮者に立たされるでしょ。あの時ついあなたの
方ばかり目がいっちゃう。あ、また目が合った。やっぱり私のこと
見てるでしょ。

 
 彼女へのプレゼントに小さなネックレスを買った。こんな自分が
滑稽だがもう気持ちを抑えられない。ファンだと言って楽屋口で待
てば渡せるはずだ。「いつも目が合いますね」とでも言ってみようか。
 
 演奏会が終わった。心臓の鼓動は限界だ。意を決して椅子から立ち
上がると隣の席の男が俺を呼び止めた。「落ちましたよ」と男は
ネックレスの入った袋を拾って俺に手渡した。笑顔の爽やかな整った
顔だちの男だ。「この男なら彼女とお似合いかもな・・・」。
俺はその男の赤いネクタイを眺めながらふとそう思った。
  

Posted by arakihitoshi at 00:23Comments(6)

2009年07月02日

ラスト オーケストラサムライ 2

さて、今日はまずこの動画をごらんください。

どうです? これ。
私は激しく言いたい。
「ヴァイオリンは俺が弾くからおまえは部屋を掃除しろ!」と。

そしてこの動画。


「むやみに触ると・・、セクハラですよ! うふ」
・・・・ なにが「うふ」じゃ! どあほ!! 誰がおまえなんか触るか!!
いや。触るだけならちょっと触ってみたいかな・・。

最近のロボット工学はおかしな方向に向かってないか!

そもそもロボットとはこの様な姿であるべきである!。
robita
手塚治虫「火の鳥」復活編 より

ロボットとはこのロビタの様な姿で、掃除や選択やご飯を作ったり、危険な任務についたり、力仕事をしたり・・・。
そして人間様はクリエイティブな作業に専念できるのである。

しかるに、最近のロボット共ときたら、満足にメシも作れないくせにヴァイオリンを弾くだの、「セクハラですよ! うっふ〜〜ん」とか言って色気づいて人間の領域に入り込んでこようとする。 
われわれが欲しいロボットはそういうロボットではないのである。
いや、少しはあ〜んなことやこ〜んなことを妄想するロボットも欲しいのかもしれないが、基本的には違うのである。
もっとメカメカっちい、いかにもロボットしてるロボットがいいのである。

ヴァイオリンロボットは置いておいたとしても、今の現実社会でも機械化によって生身の演奏家の活動領域が犯されている現状もある。
記憶に新しいところでは、2007年のブロードウェイのミュージシャンなどで作るステージユニオンによる大規模なストライキだ。ステージバンドの雇用人数をめぐる労使紛争だった。(詳しくはググってちょ)
身近なところでも、阪急電鉄による宝塚歌劇オーケストラの大幅な人員削減などがあった。
雇用者側には経営上の、被雇用者側には生活の、それぞれ主張があるのは分かる。しかし生演奏をコンピューターによる打ち込みやシンセサイザーに置き換えることによる音楽的損失に異論を唱える人はいないはずだ。


前置きが長くなったが、季刊「ゴーシュ」連載の”クラヲタへの道”、3月発売号のネット掲載解禁日になった。
この巻のネタは上記のようなロボット問題である。
前回”ラスト・オーケストラサムライ”同様、小説仕立てである。
それでは、長々しい前置きの背景が通奏低音的にあることをお含みおきいただいた上で、お読みください。ちなみにモデルは札響のヴァイオリニスト福井岳雄さんである(爆)。


『ラスト オーケストラサムライ 2 』

20××年某日。ロボット法が施行されて10年。

俺は1960年式ビートルをキタラの楽屋口に横づけした。空冷式のけたたましいエンジン音が中島公園の静寂を引き裂いた。この音に眉をしかめる連中もいるが、かまうことはない。

トンダ製の車が駐車場の線に沿って整然と並んでいる。「どれもこれも同じような形をしやがって・・・」。これを見ると胸が悪くなる。
俺はビートルを横づけしたままヴァイオリンを持って楽屋口の階段を登り、ドアを足で蹴り開けた。警備員は驚きもせず無表情に俺を眺めると、「おはようございます。よい天気ですね。」と無機質な笑みを浮かべた。

出演者ラウンジでは楽員たちが所定の場所でウォーミングアップをしている。俺の存在を認識すると楽器を弾く手を止め、「おはようございます」といんぎんに挨拶してきやがる。「なにが『オハヨウゴザイマス』だ。いっぱしの口ききやがって」。俺はくわえていた煙草を楽員のひとりめがけて投げつけた。火の付いた煙草はそいつの顔に命中したが、かまうことはない。その楽員は何事もなかったように再びウォーミングアップに戻った。

21世紀のごく早い時期。自動車メーカーのトンダは世界に先がけて、トランペットを吹くロボットを開発した。最初は皆、楽器ロイドをバカにしていた。俺もそうだった。間違わない演奏と芸術性の高い演奏はまったく別の次元の話しだ。しかし、トンダ主催のある演奏会で「展覧会の絵」のトランペットを楽器ロボに吹かせる、という企画が大当たりし、それをきっかけにオーケストラ業界は、楽員を楽器ロイドに入れ替えていったのだ。人件費ばかりかさみ何かとやっかいな人間の楽員よりロボットの方がいいというわけだ。

しかし、ある時期を境にオーケストラの客離れが始まった。完璧過ぎる楽器ロイドたちの演奏は退屈で眠気を誘う・・、と聴衆は言い出した。まったく勝手なものだ。今ごろ気がついても遅すぎる。人間は俺ひとりになっちまったぜ。

かつてこの舞台は楽員たちの人間臭いドラマで溢れていた。悲喜交々、演奏の出来に一喜一憂したり、そんな日常を共有してこそオーケストラは成長するのだ。俺はそんな職場が好きだった・・。
おっと、おセンチな思い出話はここまでだ。ロボ公に聞かせても分かるわけがない。

俺は最後の人間様だ。ロボ公には真似できない”間違い”をするのが俺の仕事だ。
開演を告げるボーカロイドのアナウンスが流れた。俺はロボ公どもに混じってステージに出た。
今日のプログラムは「フィガロの結婚」からだ。楽譜はピアニッシモで始まるが、かまうことはない。指揮ロイドが振り下ろす棒より一瞬早く、俺は渾身のフォルテッシモで弾き始めた。
  
Posted by arakihitoshi at 22:56Comments(4)TrackBack(0)

2009年06月17日

ラスト・オーケストラサムライ

「季刊ゴーシュ」連載の”クラヲタへの道”。
2008年冬号と2009年春号にラスト・オーケストラサムライ1、2を掲載しました。
このたび、春号のネット掲載禁止期間が解けましたので(笑)、まずは1から掲載します。

このお話しはですね〜〜、小説仕立てではありますが実は切実です。
オーケストラの男女比の問題は、業界では20年ほど前から社会問題化しています。
このままいくと、ラスト・オーケストラサムライを地で行く事態が遠くない将来訪れるでしょう・・。

札響ブラスで毎年コンクール上位入賞校の中学生たちと共演してるのですが、今年は上位3校の生徒が全員女の子でした。
ブラスで指導をしている札響管楽器奏者たちは、「20年後の札響の雛壇は女ばかりだよ・・」と苦笑します。
わたしの知り合いの中学校の音楽の先生たちは、「男の子たちの多くがブラスバンドを楽しめるほど精神的に成熟していない」と嘆きます。

クラシック音楽業界の危機感はここに至ってかなりのものになってきています。
あ、もちろん女性奏者がいけないっていう話しではないですよ。ひとりひとりの女性奏者は皆素晴らしいです。あくまで比率の問題です。男女の性差みたいな不毛な議論はする気はありませんから!・・念のため(^_^;)

では、そんな事情もお含みおきいたいだて、「ラスト・オーケストラサムライ」お読みください。


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『札響3ちゃんねる クラヲタへの道』
その12 『ラスト・オーケストラサムライ』。 


20××年某日。この日は俺にとって、いや、世界のオーケストラにとって特別な日だ。

朝、俺はいつものようにチェロケースを手にホールを目指した。
ドイツゲヴァー製の10kgあるチェロケースを片手で扱う所作は女には真似できない。
俺は馴染みの守衛の女性に軽くウィンクして舞台裏に入った。
既に多くの楽員たちが思い思いの場所でウォーミングアップをしている。
彼女たちは俺の姿を見ると、いつもより念入りに挨拶をよこした。
そう、今日は特別な日だ。俺はいつもと変わらない態度を装った。
彼女たちの髪型の変化や、新調した服を見つけてはセンスの良さを褒めた。
こんな他愛のない会話がセクハラなどと言われた時代もあったが、それは男が少しは強かった遠い昔の話しだ・・。

俺は楽屋の前に着くと、ドアに貼られた案内板を見て思わず苦笑した。
いつもは「男性」と書かれた案内板に、今日は俺の個人名が書かれていた。
これではまるで指揮者かソリストの楽屋だ。
たしかに、「男性」と書こうか俺の個人名を書こうが、今となっては同じ意味ではあるが。

この楽屋も昔は賑やかだった。
バカな冗談や無邪気な下ネタで笑いの耐えなかったあの頃が無性に懐かしい。
俺も歳をとったな・・・。
俺一人が使うには広すぎる楽屋で、無言で燕尾服の袖に腕を通した。
この動作も今日が最後だ。この燕尾は洋楽歴史記念館に寄贈が決まっているそうだ。
世界に現存する最後の燕尾服なのだ。

鏡に向かった俺は、ふと髭を剃る手を止めた。
不精髭か。それも悪くない。「世界で最後の男性オーケストラ奏者なのだから・・・・」俺は呟いた。
今日は俺が生れて70年を迎える日だ。そして定年退職で半世紀勤めたオーケストラを去る日でもある。
俺は顎を撫でて剃り残した髭の感触を確かめながら楽屋を後にした。

かつてこのホールの舞台は汗の染みこんだ燕尾に身を包んだ「漢(おとこ)たち」の大地だった。
弦が唸り、管が慟哭し、打楽器が炸裂した。猛々しいガクタイの漢(おとこ)たち・・・。それも遠い遠い昔の話しだ。

20世紀の終わり頃からだろうか。オーケストラから男性奏者の姿が急速に減っていったのは。
これといった原因も特定できず、なす術も無いままオーケストラは女性の職場へと変貌を遂げていった。

開演を知らせる2ベルが俺の物憂い感傷を中断してくれた。
お客にとっても男性オーケストラ奏者の姿は今日が見納めだ。
女性楽員たちに混じって俺が舞台に出ると、客席から微かな拍手が沸き起こった。
さあ、最後の男の姿だ。しっかり見てくれよ。
俺は燕尾服の裾を高々とはらって席に着いた。

※この物語は近未来SFファンタジーであり、私の思想信条とは一切関係ありません(汗)。

  
Posted by arakihitoshi at 01:48Comments(0)TrackBack(0)